セーヌ川に浮かぶ木造建築の船内にあるデイケアセンター“アダマン”の日常を綴った、このドキュメンタリーは、第73 回ベルリン国際映画祭コンペティション部門で最高賞の金熊賞を受賞しました。
“アダマン”は、精神疾患を抱える人々が無料で利用できるデイケアセンターで、絵画や音楽など、クリエイティブな活動を皆で行っています。一見すると、誰がスタッフで誰が患者かはわからず、皆自由に伸び伸び過ごしています。印象的なのは、患者自らが主体的に活動していることです。そして、スタッフも患者の思いや意見を尊重し、皆で運営している様子がとても朗らかに映ります。
また、彼等が描く絵や、奏でる音楽がとてもユニークで、その創造性の豊かさに驚きます。それでも、ふとした時に心の中の辛さを吐露したり、これまでの苦労を語る人はいて、一見楽しそうにしてはいるものの、皆それぞれに闘っていることが伝わってきます。同時に彼等が語るストーリーにはどこか哲学的な内容が含まれていて、辛い経験があるからこそ見える世界があるのだなと感じます。
日本では、精神疾患に悩む方々が気軽に相談に行ける風土が醸成されているとはいえません。精神疾患自体に馴染みがないため、先入観を持ってしまうこともあると思います。本作はとても温かで優しさに包まれた作品なので、そんな先入観を少し取り払ってくれるはずです。
内容からしてデート向きではありませんが、社会の出来事に関心のあるカップルなら、デートで観るのもアリでしょう。デイケアセンター“アダマン”にくる人々のユニークな芸術作品、芸術活動も見どころです。朗らかな気分で観てください。
キッズの皆さんにはまだピンとこないかもしれませんが、大きくなって関心が出てきたら観てみてください。デイケアセンターは、訪れる人達のニーズに合わせていろいろなタイプがあると思います。一定のイメージはあるかもしれませんが、実態は直接見ないとわかりません。見学をするつもりで、本作を観てみるのも良いのではないでしょうか。
『アダマン号に乗って』
2023年4月28日より全国公開
ロングライド
公式サイト
© TS Productions, France 3 Cinéma, Longride – 2022
TEXT by Myson