30歳の父カラムと11歳の娘ソフィが過ごした夏の数日間を描いた本作には、余計な説明がありません。物語は淡々と進んでいき、2人のやり取りから、徐々に彼等が置かれている状況が見えてきます。だから、何が起こっているんだろう、何が起こるのだろうと、何ともいえない胸騒ぎが止まりません。そして迎えるクライマックスで、クイーンとデヴィッド・ボウイの曲“アンダープレッシャー”が流れると、その歌詞がインスピレーションとなり、これまで観てきた光景の意味が突如押し寄せてきて、何ともいえない感情がこみ上げてきます。
きっとこういうことなのだろうという伏線があらゆるところに張り巡らされてはいますが、それを繋ぎ合わせて何が描かれていたのか見つけるのは観る側それぞれで違うと思います。また、チラホラ話題に出てくるカラムの出自については、イギリスの歴史や本作の時代背景についての知識があると、さらに理解が深まりそうです。
でも、本作はまさに心で観る映画。考えるより感じながら観て欲しい作品です。こんな風に表現できるシャーロット・ウェルズ監督の才能に圧倒されます。父カラム、娘ソフィ、それぞれの心にシンクロしたり、童心に返って、幼い頃の自分にもシンクロしながらご覧ください。
親子のストーリーなので、ロマンチックなムードになるような内容ではありませんが、デートで観て気まずい内容でもないので、2人とも興味があれば一緒に観るのもアリでしょう。自分の家族との思い出と自然にオーバーラップさせながら観てしまう内容なので、観終わった後はお互いの家族の話をするのも良いですね。
親が一生懸命自分に伝えようとして話してくることでも、子どもの頃にはピンとこないことは多々あります。でも、大人になって振り返ると、あの時の親の言葉はこんな気持ちで言っていたのかもしれないと気付けることもあります。本作はそんなことを教えてくれるので、キッズやティーンの皆さんが今観ておくと、今は完全に理解できなくても親が一生懸命伝えてくる言葉は覚えておこうという意識が少し持てるような気がします。また、親のことを親としてではなく一人の人間として客観視できる部分があるので、同じ目線で親を見ることで心の距離が少し近く感じられるかもしれません。
『aftersun/アフターサン』
2023年5月26日より全国公開
ハビネットファントム・スタジオ
公式サイト
© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022
TEXT by Myson