ヤクザと刑事が手を組んで、無差別連続殺人犯を追い詰めるという奇想天外なお話ですが、本作は実際の事件に基づいて創作されたというから驚き。どこまでが実際の事件の部分で、どこからがフィクションなのかとても気になりますが、いずれにしてもリアリティがあると同時に、かなりドラマチックなので、映画化されるのも頷けます。本作は韓国で大ヒットし、既にシルベスター・スタローン制作でハリウッド・リメイクも決定しているそうです。
ストーリーについて、一般的には「悪とは、善とは」という一定のイメージがありますが、本作を観ると、全人類に共通する善と悪の定義をすることは不可能であると感じます。本作には悪を持って悪を制する部分が大いにありますが、社会的に善とさせる立場の警察だって必要悪に頼る部分があって、社会的に悪とされるヤクザにも良心があって、それぞれの“正義”、その時々の“正義”を自在に変化させながら、人間は折り合いをつけて生きているんだなと思います。本作は誰が悪人で善人かをジャッジしていない点でキャラクター描写に厚みがあり、観ている側も法による裁きだけでなく必要悪を心のどこかで期待させられたり、観ながらにして善と悪を彷徨う人間の性(さが)を体感できます。マ・ドンソク、キム・ムヨル、キム・ソンジュも迫真の演技を見せていて、最後まで緊張感を途切れさせずに観られますが、ちらっとユーモラスなシーンもあって、演出、演技のクオリティも高いです。ビジュアル的にマフィア映画に見えますが、良い意味でそのジャンルに収まらない、社会派スリラーとなっているので、映画好き女子にも観て欲しい1作です。
ヤクザ、無差別連続殺人犯というキーワードが出ている点でお気づきの通り、バイオレンス要素は必須なので、苦手な人はいると思います。露骨に映しているシーンはそれほどないものの、思わず痛さを想像して緊張感が高まるシーンは何度もあるので、相手にその辺りに免疫があるかどうかをわかった上で、デートで一緒に観るか検討してください。ロマンスの要素は一切ありませんので(笑)、ムーディになることは期待せず、でも吊り橋効果はちょこっとだけ期待できるかも知れません。
これはキッズには怖いでしょう。映画に目覚めた中学生ならトライしてみても良いかなと思いますが、世の中の歪み、大人の事情を多く含んだ内容なので、「善と悪って、結局何なんだ?」と混乱を伴うかも知れません。でも、それぞれの立場によって見え方が違うこと、何が正義で何が悪かは簡単には区別できないことを、極端な例で学べるストーリーだとも言えます。エンタテインメントとして楽しむだけでも十分ですが、考えさせられる部分がある点で見応えを感じてもらえると思います。
『悪人伝』
2020年7月17日より全国公開
クロックワークス
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TEXT by Myson