REVIEW
つげ義春「雨の中の慾情」を原作とし、片山慎三が監督、脚本を務めて撮った本作は、とても不思議な世界観が印象的な作品です。冒頭は、タイトルにある『雨の中の慾情』という言葉そのものを表すようなシーンから始まります。そして、徐々に舞台となる国や時代背景が見えてきます。そのままストーリーが展開していくのかと思いきや、ある時点で「???」となる描写が出てきます。
この大きな展開をもたらす描写によって、主人公だけではなく、観ているこちらも自分は今どこにいるのだろうという感覚に引き込まれます。私なりの解釈に過ぎませんが、前半は主人公である漫画家、義男(成田凌)の慾情のストーリー、後半は義男が今どういう状態にあるのかを明かすストーリーとなっています。
本作は、日本と台湾の合作で、台湾映画独特の質感と、実力派日本人キャストが作り出す世界観が見事に融合されています。慾情をテーマにしているため必然的に描かれるヌードを含めた性描写は、美しさと艶めかしさが印象的です。成田凌、中村映里子らが好演しているのと同時に、森田剛が味のある演技を見せています。年を重ねて俳優としてさらに脂がのってきた印象です。
ここからはあくまで私個人の解釈です。ネタバレしないように書いていますが、鑑賞後に読むことをオススメします。
“雨の中”は主人公が置かれている状況の比喩と捉えました。義男はある理由から夢の中を彷徨っているような状態にあり、その状況を雨の中と捉えることもできそうです。また、ストーリーの中で描かれる慾情は彼の生命力の原動となっているように思えます。こうした義男の慾情には、フロイトが提唱したリビドー(=「①欲望、②性的エネルギー」国語辞典 改訂新版 旺文社)に通じるものを感じます。
と、ここまでは自分なりの解釈をしてみたものの、一度観ただけでは咀嚼しきれないものがあります。逆に咀嚼しきる必要はなく、感覚で楽しむべき世界観なのかもしれません。とはいえ、原作者の作品を読み込み研究している方などがいたら、解釈を聞いてみたくなるストーリーです。
デート向き映画判定
性描写が多いため、デートで観るのは気まずいように思います。ただ、観た後に他者と感想や解釈を話したくなる作品です。そして、本作のストーリーから、カップルだからこそ果たせる役割があると気づかされるかもしれません。普段からどんな映画でも一緒に観ているカップルなら、デートで観るのもありでしょう。
キッズ&ティーン向き映画判定
15歳以上の方は観られます。ティーンの皆さんが観ると、どういう感想が出てくるのか聞いてみたい内容です。頭で考えずに感覚で観るのもアリだと思います。インパクトのある性描写が複数あるので、そこにフォーカスしてしまう可能性はなきにしもあらずとはいえ、根底のテーマは“生きる”ということだと思います。主人公が置かれた状況に自分も身を置いて観てみると、何かしら伝わってくるものがあるでしょう。
『雨の中の慾情』
2024年11月29日より全国公開
R-15+
カルチュア・パブリッシャーズ
公式サイト
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©2024 「雨の中の慾情」製作委員会
TEXT by Myson
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情報は2024年11月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。