REVIEW
本作は、2020年春、東京で実際に起きた事件に基づいています。映画公式資料によると、入江悠監督は、ある新聞記事を読み、映画化しなければと思い立ち、担当記者へ取材をして脚本を書いたそうです。主人公の香川杏(河合優実)の人生があまりにも過酷でこんな状況が身近にあることに大きなショックを受けると同時に、コロナ禍がさらに追いうちをかけ大きな悲劇を生んでしまった現実にいたたまれない気持ちになります。
虐待、強制売春、薬物依存で苦しんでいた杏は、ある出会いによって、その苦しい生活から脱却しようとしていました。杏は何度も元の生活に引き戻されそうになりつつも、少しずつ希望を持ち始め、地道な努力をしていきます。前半はそんな杏の変化を観て微笑ましい気持ちになるのですが、杏の心を折ってしまう出来事が複数起こります。何が起こるのかは本編でご覧いただくとして、それぞれの出来事があまりに理不尽で、杏が優しい人だからこそ観ていて本当に苦しくなります。
主演の河合優実をはじめ、脇を固めるキャストの演技も見ものです。既に若手実力派俳優として頭角を表している河合優実は本作の主演でさらに1つ上のステージに上がったといえます。また、佐藤二朗は持ち前のユーモアのセンスを活かしたシーンがある一方で、シリアスなシーンで迫力を見せています。稲垣吾郎が演じたキャラクターも物語にどういう作用を及ぼすのか要注目です。そして、杏の母を演じた河井青葉のリアルで迫力ある演技がとても印象的で、物語の緊張感を大いに高めています。入江悠監督、キャスト皆の思い入れが伝わってくる作品です。これは日本で起きた事件です。目を逸らさずにご覧ください。
デート向き映画判定
とてもシリアスな内容で鑑賞後はしばらく重い気持ちが残ります。なので、デート向きとはいえません。ただ、こうした社会問題をどう受けとめるのかという姿勢に、人生観が表れると思います。一緒に観て感想を交換するとお互いの人生観を知ることができそうという点で、カップルで観るのも有意義ではないでしょうか。
キッズ&ティーン向き映画判定
杏は母親から壮絶な虐待を受けて育ち、小学校4年生から不登校になっただけでなく、12歳から強制的に売春をさせられ、薬物中毒になっています。これが、皆さんと同じ年頃で杏が体験したことだと思うと余計に信じられないと思いますが、本作は実話を基にした作品であり、現実に起こったことです。杏と同じような状況にある人達のために何か直接できることがないとしても、こうした現実をまず知るだけでも大きな1歩だと思います。
『あんのこと』
2024年6月7日より全国公開
PG-12
キノフィルムズ
公式サイト
© 2023『あんのこと』製作委員会
TEXT by Myson
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情報は2024年5月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。