高校で教師をしているマーティン(マッツ・ミケルセン)、トミー(トマス・ポー・ラーセン)、ニコライ(マグナス・ミラン)、ピーター(ラース・ランゼ)は、ノルウェー人哲学者が説いた「血中アルコール濃度を常に0.05%に保つと仕事もプライベートもうまくいく」という理論を証明すべく実験を行います。そして、公私ともにパッとしない毎日を過ごしていた彼等はお酒の力を借り、少しずつ状況を変化させていきます。
ここからは本編でご覧いただくとして、本作はユーモアと哀愁が絶妙に織り交ぜられたストーリーが秀逸。お酒の力で気が大きくなった彼等の様子がコミカルに描かれると同時に、歴史上の偉人達の逸話や近代の各国の首脳陣を揶揄するシーンもあり、クスッと笑えるテンションが楽しいです。一方で、誰でも失敗や挫折を味わうけれどそれを克服することは周囲が思うほど容易ではないこと、人間は楽な方法を取りたがることなど、人間の弱さを突きつけつつ、そんな不完全な人間の愛らしさも描いています。そして、そんな愛らしいキャラクターを演じるマッツ・ミケルセン、トマス・ボー・ラーセン、マグナス・ミラン、ラース・ランゼの名演も見もので、どの人物も魅力的で愛おしく思えるからこそ彼等が放つ哀愁も引き立ちます。
お酒を飲むことについて、イエスかノーでジャッジするわけではなく、お酒を通して人間模様を描いているストーリーというところでも、説教的になっておらず誰でも楽しく観られて、同時に反面教師としても観られると思います。全体的には人の優しさが詰まっている作品なので、いろいろなことに疲れている人は本作で心を癒してください。
心が離れてしまった夫婦の物語も描かれています。今順調なカップルは、将来あり得る状況として観察することで、未然に何か努力できることはないか考えるきっかけにできる部分もあるでしょう。既に今マンネリ化しているカップルは、一緒に観るよりは各々で観て、キャラクターを通して自分の気持ちを客観的に見つめ直してみてはいかがでしょうか。
本作が作られたデンマークでは、16歳以上に酒類の購入が認められているそうで、そこは日本とは背景が違う点をわかった上で観てください。本当はやっちゃいけないことが多く出てくるので、そこは反面教師として観て、未成年のうちは真似をしないでください。教師が主人公で学校のシーンも多く、皆さんにとっても身近に感じられるストーリーです。良作なのでシンプルにエンタテインメントとして楽しんで欲しいなと思います。
『アナザーラウンド』
2021年9月3日より全国公開
PG-12
クロックワークス
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TEXT by Myson