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アルマゲドン・タイム ある日々の肖像【レビュー】

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映画『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』バンクス・レペタ/アンソニー・ホプキンス

人は誰かを犠牲にしながら生きている、そんなことを痛感させられるストーリーです。本作は、『エヴァの告白』『アド・アストラ』などを手掛けたジェームズ・グレイ監督の自伝的物語。1980年代のニューヨークを舞台に、12歳のポールの目線で描かれています。絵を描くことが大好きで将来は画家になることを夢見るポール(バンクス・レペッタ)は、担任から常に目をつけられている少年(ジェイリン・ウェッブ)と仲良くなります。ポールは彼が黒人であるがゆえに困ることがあるのではと常に心配しながらも、一緒に問題を起こし転校させられてしまいます。
この後のストーリーは本編でご覧いただくとして、本作はこの社会には人種や職業などによる理不尽で不公平な状況が多くあることを描いています。ポールはそんな社会でどう生き抜けば良いか戸惑い、傷つきながら成長していきます。本作には決して綺麗事ではない現実と同時に、無邪気でまだやんちゃな子どもが、大人のいうことと自分の中で芽生え始めた正義感との間で葛藤する姿が描かれています。そんなポールと、ポールが大好きな祖父アーロン(アンソニー・ホプキンス)のやり取りには、大切な会話がいくつも出てきます。2人のやり取りはとても微笑ましく温かさに包まれていて、観る者を癒すと同時に、アーロンが自身とその両親の過去の壮絶な人生経験をもとにポールへ語る一言ひと言も、観る者の心に刺さります。ポールは祖父の言葉を胸に、社会から孤立した友達を大切にしようと試みますが、周囲の人々の言動は、それを何度となく躊躇させます。正しくあろうするのは簡単ではなく、ポールは自分が卑怯な態度をとってしまうことへの罪悪感や自分自身への怒りと葛藤します。ポールの姿を観ていると本当に辛くなると同時に、私達も意図しているかしていないかを問わず、誰かの犠牲の上に自分が守られていることがあるのだと思い知らされます。1980年代を描いていますが、今の私達にも通じる普遍的な物語です。
多くの気付きを与えてくれる本作は、ジェームズ・グレイ監督の手腕による秀作となっているのはもちろんのこと、俳優陣の演技力の賜物でもあります。まず、ポールを演じたバンクス・レペッタ、同級生を演じたジェイリン・ウェッブの自然な演技によって、子ども達の等身大の葛藤が伝わってきます。そして、アンソニー・ホプキンスが本当にすごい。彼が演じる祖父アーロンの人間的魅力に観ているこちらも癒されます。
心に複雑な感情を喚起させ、生きる上で忘れてはいけない教訓を授けてくれる本作。一度でなく、自分の人生を振り返る際に何度も見返したい作品です。

デート向き映画判定
映画『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』アン・ハサウェイ/アンソニー・ホプキンス

大切な人と観て欲しい作品です。本作を観て何を感じたか感想を述べ合うと、お互いの人となりを一層知ることができそうです。交際が浅いカップルは、人生観が合うかどうか試す意味で観るのもアリではないでしょうか。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』バンクス・レペタ/ジェイリン・ウェッブ

皆さんと同じ世代の少年の成長物語なので、感情移入しやすいでしょう。人間や社会の理想と現実についても考えさせられるストーリーです。本作を観ると、友達や家族、周囲の人々について、見方が少し変わるかもしれません。人や物事をもっと深く洞察して、自分なりに考えて行動できるきっかけになると良いなと思います。

映画『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』アン・ハサウェイ/ジェレミー・ストロング/バンクス・レペタ/ジェイリン・ウェッブ/アンソニー・ホプキンス

『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』
2023年5月12日より全国公開
PG-12
パルコ、ユニバーサル映画
公式サイト

© 2022 Focus Features, LLC.

TEXT by Myson

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