ユダヤ人であるというだけでアウシュビッツの強制収容所に入れられ、そこで生き抜くためにボクサーとして戦ったハリー・ハフトの実話です。ハリーの息子アラン・スコット・ハフトによる著書が原作です。これまでにも、強制収容所から生き伸びたユダヤ人の方々の実話を映画化した作品は複数ありましたが、まだまだ知られざる事実があるのだなと本当に驚きです。強制収容所で行われていたボクシングは、スポーツとして行われていたのではありません。それは人間を人間として扱わない、ナチスドイツの兵士達によるとても酷い仕打ちでした。真相は映画でご覧いただければと思います。ただ、そんな状況でもハリー・ハフト(ベン・フォスター)はボクシングをして生き続けなければいけない理由がありました。それは、自分の目の前でナチスに連れ去られた恋人との再会を果たすためです。彼は彼女が生きていると信じて、再会することだけを生き甲斐に苦難を乗り越えます。
ハリーは、多くのユダヤ人の犠牲の上に自分が生き延びたことへの罪悪感を強く感じています。彼が苦悩する姿を見ると、アウシュビッツから生還し、戦争が終わっても、彼はずっと過去に囚われて生きているのが伝わってきます。収容されている間の苦難が壮絶なのは当然ながら、生還後もどれだけ苦しかっただろうと想像を絶します。また、そんな彼を支える1人の女性ミリアム(ヴィッキー・クリープス)の献身的な姿も印象的です。本作は観ていて辛い内容ではありつつも、人の愛情がどれだけ重要で、人の心、そして命を守る力を持っているかを実感できます。
監督は、『グッドモーニング・ベトナム』『レインマン』『バグジー』などを手掛けたバリー・レヴィンソン、映画音楽はハンス・ジマーが務めています。キャストも豪華で、ベン・フォスター、ヴィッキー・クリープス、ピーター・サースガード、ジョン・レグイザモ、ダニー・デヴィート、ビリー・マグヌッセンといった実力派が揃っています。映画公式資料によると、ベン・フォスターはアウシュビッツで収容中のハリーを演じるにあたり28㎏も減量し、その後、14年後のハリーを演じるため、5ヶ月で元の体重に戻したとあります。その役作りの徹底ぶりは劇中の姿を観れば一目瞭然です。
極限状態にあっても愛する人を大切にする主人公の姿、そして主人公を支える人達の姿が観る者の胸を打つ作品です。絶望を突きつけつつも、最後は救いをもたらしてくれます。愛情深い人間の生きる力の強さをぜひご覧ください。
辛くて重い内容なのでデートムービーとはいえませんが、愛する者同士が支え合うストーリーという点ではデートで観るのもアリでしょう。ハリーが恋人のために生き続けようとする姿、ハリーを支える女性の姿を観ると、今一緒にいるパートナーの存在が尊く見えるのではないでしょうか。逆に「自分達も彼等のように支え合えるだろうか」と考えながら観てピンとこなかったら、相手に対してちょっと気持ちが冷めているのかもしれません(汗)。
かなりショッキングなシーンも含まれるので、観るなら中学生くらいになってからが良いように思います。ナチスドイツによるユダヤ人の迫害は社会の授業で必ず勉強すると思います。実際に何が起きていたのかを知る上で、実話の映画化作品はとても参考になるでしょう。本作を含め、ナチスドイツ、ユダヤ人に関してさまざまな視点で描いた作品は多くあります。社会科の勉強と同時に、人間とは何かを考えるきっかけに観てみるのはどうでしょうか。
『アウシュヴィッツの生還者』
2023年8月11日より全国公開
キノフィルムズ
公式サイト
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TEXT by Myson
本ページの情報は2023年8月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。