いや〜スゴい映画を観てしまいました。ストーリーそのものも、映画という芸術としても、圧倒されました。本作の原作は、自身もホロコーストを生き伸びた1人である、ポーランドの作家イェジー・コシンスキが1965年に発表した代表作「ペインティッド・バード(初版邦題:異端の鳥)」。この原作はポーランドでは発禁書となり、作家自身も1991年に謎の自殺を遂げていて、それを聞いただけでも、ただならぬものを感じますが、映画そのものもヴェネツィア国際映画祭で物議を醸しました。というのも、主人公の少年に降りかかる試練がすさまじいのです。ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門で本作が上映された際には、途中退場者が出た一方で、10分間のスタンディングオベーションが起こったとされており、賛否両論を生む作品だということをおわかり頂けると思います。ちなみに原作者のイェジー・コシンスキは、アカデミー賞最優秀監督賞ほか3部門を受賞した1981年の映画『レッズ』(ウォーレン・ベイティ監督・主演、ダイアン・キートン共演)で、ボルシェビキの指導者グレゴリー・ジノヴィエフ役を演じるなど、俳優としても活躍していたそうです。
そして、もう一つ特筆すべきは、主演のペトル・コトラールの素晴らしい演技です。彼はヴァーツラフ・マルホウル監督に偶然見出された一般人で、本作が初出演というから驚きます。本作では、舞台となる国や場所を特定されないように、人工言語“スラヴィック・エスペラント語”が採用されているとのことですが、そもそもコトラールのセリフはすごく限られていて、ほとんど非言語的表現でキャラクターを構築しています。そんな難役を見事に体現した彼のすごくリアルで繊細な演技にぜひご注目ください。さらに、本作にはウド・キアー、ステラン・スカルスガルド、ハーヴェイ・カイテル、ジュリアン・サンズ、バリー・ペッパーなど魅力的な俳優がしれっと出てきます。「しれっと」というのが味噌で、変にエンタメ感が出ることなく、作品の世界観を保持しているところに、彼等の演技力の高さと、制作陣の演出力の高さを感じます。
本作は約3時間のモノクロ映画ですが、モノクロだからこそ観る側の想像力を刺激する演出も見事です。また、これはあくまで私の解釈ですが、モノクロの映像が意味するところに、心が麻痺している人々が見ている風景が反映されているのではないかと考えます。戦争下で差別や虐待、虐殺がはびこる状況が、人を狂わせているのか、狂った人々がこの世を狂わせているのか…。色味のない世界が心を失った人々が住む世界を投影していて、むごくてグロテスクな出来事もモノクロで見えているのかも知れません。そして、主人公が子どもだからといって性的な成長を描くことを避けない点も印象的です。本作では、主人公が受ける残酷な出来事に心を痛めながらも、同時に残酷さを身につけることで彼が生き抜いていく姿も目の当たりにさせられます。良い意味で1度観ただけでは咀嚼しきれない重みがある作品。これは見逃せない1作です。
かなりヘビーなストーリーで、衝撃的な描写も出てくるので、デートで観るタイプの映画ではありません(苦笑)。ただ、一緒に観ると、間違いなく思い出の1つになるくらい強烈な作品なので、映画好きカップルはデートで観るのもありでしょう。上映時間の長さと内容の重さからして、お互い元気な時に観ることをオススメします。
R-15+なので、15歳未満の人は観られません。大人が観ても衝撃的なので、映画を観慣れていないティーンの皆さんは、心して観てください。主人公は辛い体験ばかりするので、観ている側も辛くなってきますが、彼が生きるためにその都度重要な選択をしている点に注目して観ると、人の価値観がどうやって築かれていくのかがわかると思います。これが自分だったら極限の状況で何を大切にするか想像しながら観てください。
『異端の鳥』
2020年10月9日より全国公開
R-15+
トランスフォーマー
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TEXT by Myson