1894年、フランスで起きた冤罪事件“ドレフュス事件”を、ロマン・ポランスキー監督が映画化した本作は、冒頭で示される文章から実話に忠実に描かれたものだとわかります。そういった点で、意図的に美談にされているところがない分、軍という組織特有の頑なな体質が一層リアルに伝わってきます。
ユダヤ系の陸軍大尉ドレフュス(ルイ・ガレル)は、ある日突然ドイツに軍事機密を流したスパイ容疑で逮捕されます。彼は終身刑を言い渡され、遠く離れた島へ送られます。その頃、新たに情報機関のトップに就任したピカール中佐(ジャン・デュジャルダン)は、同機関の不審な動きに気付き、やがてドレフュスが何者かに濡れ衣を着せられた事実に辿り着きます。本作にはユダヤ人への差別と、軍の厳しい規則と腐った体質が生む問題が描かれています。恐ろしいのは、ドレフュスに罪を着せた人々は、とても事務的で機械的で感覚が麻痺しているところ。彼等の姿を見ていると、皆が皆そうであるわけではないにしても、組織に盲目的に従うことの怖さを実感します。
そして、ピカールの奮闘もスリリングに描かれています。軍人として組織の一員である以上、身動きが取れない状況下で、彼は人間として果たすべき正義をどう貫くのか。ここまでやれば勝てるだろうと思う展開でもまだ勝てない様子からは、軍という特殊な組織が持つ魔力のようなものを感じてゾッとさせられます。ラストは意外にあっけないといえばあっけない部分もありますが、ここにも軍という組織の異様さ、歪さが表れているといえるでしょう。個人的には妙にサバサバした印象を受けましたが、それこそがドレフュス事件を生んだ世界を象徴しているのだと思います。
ちらっとラブストーリーの要素もあり、こういった関係もアリなのかもしれないと参考にはなります。ただ、かなり現実的な視点をもたらす内容で、ロマンチックなムードになるような作品ではありません。映画デートでロマンチックなムードになるのが気恥ずかしいカップルは、逆に2人とも興味があれば一緒に観るのも良いのではないでしょうか。
軍の階級がたくさん出てきて、同じ階級の人も複数出てくるので、キッズには少し難しく感じるかもしれません。腹の探り合い、上下関係があるなかでの駆け引きがスリリングに描かれているので、ストーリーそのものには引き込まれるはずです。時代背景なども少し調べた上で観ると、世界史の勉強にもなって、一層興味深く観られると思います。
『オフィサー・アンド・スパイ』
2022年6月3日より全国公開
ロングライド
公式サイト
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