鹿児島県の行事“川内大綱引”について、本作を観て初めて知りました。なので始めは地元のお祭りのことだろうというスタンスで観ていましたが、物語を辿っていくと、地元ではいかに大事な行事であるかが伝わってきます。そして、大綱というだけあって、本当に大綱です(笑)。「そんなに!」というくらい太い綱で、その綱を行事の日の朝から大勢で紡いでいく様子にも驚かされました。そんな感じでこれがいかに大事な行事であるかがわかると、一層演じた俳優さん達のプレッシャーや苦労もスゴいものがあったのではと想像ができます。実際に大綱引の様子を再現したシーンがありますが、まさに地元の協力がない限り作れないシーンとなっていて、これぞご当地映画です。
土地に根ざした物語のなかに、伝統を継いで欲しいと願う人達の思いと、これからの未来をどう描くかに迷う若者達の葛藤が見えますが、その異なる世代がある出来事を通して、それぞれの思いを胸にお互いを理解する姿が印象に残ります。佐々部清監督の遺作となってしまいましたが、監督のパワーと情熱をぜひ本作から感じ取ってください。
ビジュアルだけ見ると男臭い映画のようにも思えますが、タイトルに“恋”とある通り、基本ラブストーリーです。複数のラブストーリーが描かれていて、あるキャラクターの初々しい姿には、友達以上恋人未満の2人や、初デートのカップルならなおさら共感できると思います。まだ正式なカップルになっていないなら、本作を観た勢いで告白するのも良いかもしれません(笑)。
不器用な大人達が複数登場するので、いろいろと苦労をしてきた大人のほうが共感しやすい内容ではあります。キッズにはまだピンとこないかもしれませんが、伝統を重んじる地域に住んでいる若者や、家業を継ぐ可能性のあるティーンの皆さんは、自分に重ねて観られる部分もあるでしょう。親子の物語も重要な要素として描かれているので、たまには親を誘って観るのも良いのではないでしょうか。
『大綱引の恋』
2021年5月7日より全国公開
ショウゲート
公式サイト
© 2020「大綱引の恋」フィルムパートナーズ
TEXT by Myson