物語の舞台はドイツにある一軒家。学校の教師であるエリザベトと、哲学者で文学教授の夫シュテファンの家に、エリザベトの弟トーマスと妊娠中の恋人アンナ、エリザベトの親友、音楽家のレネが訪れ、楽しいディナーのはずがそれぞれの本心をぶちまける論争になってしまうというストーリーです。ことの発端は、トーマスがこれから生まれてくる子どもの名前を“アドルフ”にするという宣言。「アドルフといえばヒトラー」と連想されてしまうので、皆は猛反対。前半はこの「アドルフという名前に罪はあるのか」という論争が繰り広げられます。現実的に考えると、いろいろな懸念が出てくるので、「その名前はやっぱり付けないほうが無難」と思ってしまうのですが、言い争う両者の意見はそれぞれに理にかなっている部分があり、名前って思っている以上に深いし、“名付け”の難しさを実感させられます。実際にトーマスとアンナが子どもにアドルフと付けるのかは本編を観て頂くとして、本作はこういった議論が見どころの会話劇です。本作のもととなっているのは、“名付け”をテーマにしたフランスの舞台演劇だそうで、2010年にパリで上演された後、イギリスやドイツでも大ヒットした作品とのことです。後半は、妊娠中のアンナがディナーに合流し、そこからまた違った展開が出てくるのですが、最終的には皆がこれまで秘めていたことをぶちまけて終わります。「アドルフの話からそんなところまで話が発展しちゃうの!」というおもしろさも本作の魅力の1つですが、“アドルフ”という名前って未だにこれだけインパクトがあるんだなと感じます。とても秀逸な会話劇となっているので、議論好きな人にオススメですよ。
リアリティがありつつ、ユーモアたっぷりに描かれていて、カップルで観て気まずいことはなく、一緒に笑って和やかなムードになれると思います。ただ、お互いに不満を抱えていたりすると、火種をもらってしまう可能性があります(笑)。逆に、これを機に映画の勢いを借りて、お互いにぶちまけちゃうのもありかも知れませんけどね。あと、内容は難しくありませんが、歴史上の人物が多少出てくるので、そこがピンとこないと不完全燃焼になる可能性があります。その辺りの知識を共有できる人を誘うほうが楽しめると思います。
「大人ってややこしいな」というのがおもしろい作品ではありますが、これがキッズやティーンにどこまで通じるのかは未知数です(笑)。でも、“名付け”については子どもの立場でいろいろ感じることが日々あると思うので、興味が湧くテーマだと思います。名前の話題から、近代から現代までの歴史上の人物や有名人のイメージが語られるので、気になる人物がいたら調べてみると、雑学が増やせそうです。
『お名前はアドルフ?』
2020年6月6日より全国順次公開
セテラ・インターナショナル
公式サイト
© 2018 Constantin Film Produktion GmbH
TEXT by Myson