REVIEW
物語の序盤は、物々しい意外なシーンで始まります。一瞬、想像と異なる映画が始まるのかと思わせる、そのシーンや、途中途中に入る不可解な出来事もサスペンスの要素に見えてきて、本作には多面的なおもしろさがあります。軸は、認知症の父と長らく疎遠になっていた息子の物語です。父の陽二は認知症を発症していて、卓は父の世話のために一時的に会いにきます。そして、父の症状が重いと気付き、これまでに何が起こったのかを辿っていきます。そうするうちに、会っていなかった間の父との時間を取り戻していきます。
『大いなる不在』というタイトルが意味するところは、子どもの頃に主人公、卓(森山未来)とその母の元から去った父、陽二(藤竜也)だろうことはすぐにわかります。でも、物語が進むにつれて、キャラクター各々にとっての“大いなる不在”が描かれているようにも見えてきます。だから、本作は父と息子の物語であり、夫と妻のラブストーリーにも見えます。個人的には、ラブストーリーの要素が予想以上に印象に残りました。言い換えると、そのラブストーリーにこそ父の人生観が表れていて、息子が父を理解する上で助けになっているようにも受け取れます。
陽二が元教授という点で哲学的なセリフも印象に残ります。また、陽二の認知機能が失われていく背景に何が起こっていたのかというストーリーには推理を促す要素もあり、いろいろな角度から楽しむことができます。どのキャラクターの視点で観るかによっても、見え方が異なりそうなので、観た者同士で感想を述べ合うのもおもしろそうです。
デート向き映画判定
2組の夫婦が登場し、夫婦の形を客観視するきっかけになるでしょう。強い愛情によって結ばれたとお互いに信じていても、愛で乗り越えられないかもしれないと思えるような辛い出来事が起こる可能性は誰にでもあるという現実を見ることもできます。ベテラン夫婦はもちろんのこと、若いカップルや夫婦も将来の自分達の状況を本作でシミュレーションしてみてはどうでしょうか。
キッズ&ティーン向き映画判定
いろいろな経験を経て、大人になってから観るほうがキャラクター達の心情をよりリアルに想像できると思います。ただ、祖父母と過ごす機会が多い方は、認知症の問題が身近な場合もあるでしょう。認知症を引き起こすと本人や周囲の人がどんなことで困るのかを知ることで、少し力になることができるかもしれません。
『大いなる不在』
2024年7月12日より全国順次公開
ギャガ
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TEXT by Myson
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情報は2024年7月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。