本作のシーンの大半は、刑務所の中で展開します。不自由を象徴する刑務所を舞台にした物語で『大いなる自由』というタイトルが付いている理由を考えながら観る方もいらっしゃるでしょう。そのタイトルの由来は、結末でわかると同時に、改めてストーリーを振り返り、その意味を考えるきっかけとなります。
本作はドイツで同性愛が違法とされていた時代の刑法175条にまつわるストーリーです。主人公のハンス(フランツ・ロゴフスキ)は何度も、175条の罪で投獄されます。また、物語は3つの時代を行き来し、彼の恋愛遍歴を描いています。では、同性愛が違法とされている時代を背景に描かれるハンスの恋愛遍歴は何を表現しているのでしょうか。同性同士の肉体関係に罪があるのか、同性の相手を愛することが罪なのか、罪の本質を投げかける内容となっています。その答えは、彼が何度も投獄される事実にあります。そして、結末を観れば、彼が本当に望んでいたものは愛だとわかります。愛のために彼が最後にとる選択こそ、彼にとっては“大いなる自由”なのかもしれません。
あまりに不条理な物語ではありますが、とてもロマンチックなラブストーリーでもあります。ロマンチックであるからこそ、政治的かつ社会的な弾圧がもたらす残酷さが伝わってきます。本作の公式資料に「主人公のハンスは、罪もなく繰り返し刑務所へ送られ、存在を否定され、人間関係を壊され、国家の記録の中に消えていった無数の人たちであり、その人たちの運命そのものです」とある通り、信じられないけれどこんな現実があったことを知るきっかけとなる作品です。そして、社会問題とラブストーリーを見事に融合させることで、観る者に問題提起をしている点でも意義深さを感じます。
性描写があるので、初デートでは少々気まずいかもしれません。ただ、お互いを大切にする姿が描かれているので、一緒に観ると隣にいるパートナーを一層愛おしい存在に感じるでしょう。語りたくなる要素があるので、解釈を議論するのが好きなカップルにオススメです。
本作は3つの時代を行き来して、物語が描かれています。ドイツの時代背景を知った上で観るほうがより理解が深まると思います。まずは本作の公式サイトに記載された「ドイツ刑法175条」の説明を読むことをオススメします。この175条はなんと1871年から1994年まで、約120年間も続いてきました。それまでに処罰された方は14万人に及ぶとされています。このとても不条理な史実の背景に、人間の醜い思想が見えてきます。歴史の勉強だけでなく、人間を知るための勉強にもなるので、高校生になったら観てみてください。
『大いなる自由』
2023年7月7日より全国順次公開
R-15+
Bunkamura
公式サイト
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TEXT by Myson