REVIEW
『インセプション』『インターステラー』『ダンケルク』『TENET テネット』など、作品を生み出す度に観る者を圧倒してきたクリストファー・ノーランが挑んだのは、“原爆の父”オッペンハイマーの半生を描いた本作。本作は、ピューリッツァー賞を受賞した「オッペンハイマー」(2006年、カイ・バード&マーティン・J・シャーウィン著/ハヤカワ文庫刊)を原作としています。映像化された本作を観ると、ノーランでなければ実現不可能と思えるほどのリアリティと迫力に言葉を失います。そして、原爆の威力をリアルに感じられる映像で観るからこそ、その破壊力の大きさと恐ろしさ、オッペンハイマーが背負ったものの重さが伝わってきます。
物語は1954年、オッペンハイマーが50歳の頃と過去を行き来しながら描かれていきます。前半は1926年、オッペンハイマーが22歳の頃に遡り、そこから科学者としてどんどん功績を積み上げ、原爆の開発に成功するまでを描いています。ただ、本作はオッペンハイマーが原爆を開発した“功績”を称える作品では決してないことは、後半を観れば明らかです。後半は、彼が50歳の頃に開かれた聴聞会の様子とその背後に何が起こっていたかを映し出しています。アメリカは第二次世界大戦で広島と長崎に原爆を投下し、世界に絶大な力を見せつけました。真意に反して“貢献者”となってしまったオッペンハイマーは、国内で一時は英雄としてもてはやされたものの、後に地位と名誉を脅かされます。なぜ彼が聴聞会で咎められていたのか、その真相と同時に、なぜ屈辱的な状況をオッペンハイマーが受け入れていたのかが、徐々に見えてきます。それこそが、本作が伝えたいメッセージだと感じます。
本作には、アルベルト・アインシュタインもキーパーソンとして登場します。世界を変える発明は、偉大なものであればあるほど、光と影のコントラストが強く、人間の創造性は希望と同時に絶望をもたらすのだと思い知らされます。そして、本作は偉大な1人の科学者の物語でありながら、最終的に科学技術を享受する私達の物語でもあります。脚本、演出、演技力、映像技術、すべてが揃った本作は、観る者に大きな問いを投げかけてきます。クリストファー・ノーランの偉大さは、娯楽を越えた映画を作り続けていることにあると、改めて実感しました。本作を何度も観て、人間として生きることの責任を自問自答したいと思います。
デート向き映画判定
かなりシリアスな内容で、没頭して観てしまうはずです。正直なところデートの雰囲気を味わうようなテンションにはならないでしょう。オッペンハイマーの恋愛模様も複雑で、性的描写もあるので、初デートや初映画デートの場合は、少々気まずいかもしれません。ただ、鑑賞後に語り甲斐がある内容で、大切な人と共有したい映画体験といえます。2人とも興味があればデートで観るのも良いのではないでしょうか。
キッズ&ティーン向き映画判定
上映時間が3時間とかなり長いので、集中力が保てるかどうかという課題はありますが、ぜひ若い皆さんにも観ていただきたい作品です。学問の道を極め、自分の知識やアイデアで社会に貢献することを望んでいるにもかかわらず、その発明が意図しない形で使われてしまう…。武器として科学技術を使う決断をしたのが自分ではないからといって、発明者は罪悪感から解放されることはありません。本作はさまざまな考えをもたらしてくれる作品です。身近な方を誘って観て、議論すると有意義だと思います。
『オッペンハイマー』
2024年3月29日より全国公開
R-15+
ビターズ・エンド、ユニバーサル映画
公式サイト
© Universal Pictures. All Rights Reserved.
TEXT by Myson
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情報は2024年2月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。
第96回アカデミー賞®ノミネート:★作品賞、★監督賞、★主演男優賞(キリアン・マーフィー)、助演女優賞(エミリー・ブラント)、★助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)、脚色賞、★撮影賞、美術賞、★編集賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、★作曲賞、音響賞の最多13部門
※(★)は受賞した賞です。
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