小さな村に住む主人公の片山優(横浜流星)が、幼い頃に父が起こした事件により、長らく批判の目に晒されながら、わずかな希望にすがりついて生きていく様を描いた本作を観ていると、強いテーマが浮かび上がってきます。それは、臭いものには蓋をする文化です。本作の舞台となる閉鎖的な村には、異様な統率感が存在し、おかしなことに疑問を抱かない、投げかけないのが当たり前で、問題が起きても簡単にうやむやにされる状況になっています。この状況は、村の産業の中核となっているゴミ処理場に象徴されています。集められる不要なものと同様に、社会から阻害された人達はゴミ処理場で働かざるをえず、ないがしろにされている状況が比喩されているといえるでしょう。
テーマの2つ目は、臭いものに蓋をするにも限界があるということです。不法投棄は、捨てられてもなお害を与えるものの象徴に見えます。たとえ揉み消された過去でも、何かしらの形でいつまでも人々のその後の人生に付きまといます。
ゴミ処理場とゴミ、不法投棄物、それがそのまま、この村社会を比喩していて、さらには大きな括りとして、社会全体の縮図として描かれているとも捉えられます。閉鎖的な村社会を描く作品は多くあり、短絡的に観れば「嫌なら村を出ればいい」といって終わるかもしれません。ただ本作のとある登場人物もそうであったように、村を出たからといって幸せになれるかといえばそうでもありません。結局人間はどこにいても何かしらのコミュニティに属さずに生きることは難しく、居場所が必要です。ただ、誰でも容易に自分に合う居場所を見つけられるわけではありません。人が軸であるべき社会が、人ではなく見せかけの社会を守ることを重視する本末転倒な状況はこの世に蔓延しています。本作はそんな現代社会の姿を映し出しているのではないでしょうか。
お互いに支え合うカップルの姿が映し出されていて、共感できる要素はあるものの、重い内容なのでロマンチックなムードはそれほど期待できません。ただ、自分の価値観、人生観を振り返るきっかけになりそうな内容なので、一緒に観て感想を語り合うことでお互いを理解できる部分が増えるかもしれません。2人とも興味があれば一緒に観てみてはどうでしょうか。
いろいろな人生経験を経てから観るほうが一層心に刺さりそうな内容です。とはいえ、進路を考えたり、自立した後の将来イメージがだんだん具体的になってくる中学生、高校生の皆さんは、興味があれば観てみてください。大人になってくると、良くも悪くも周囲に合わせて”器用”に生きる術を知っていきます。そのなかで、自分はどんな人生を歩みたいか、本作を観て客観的に考えてみるのも良さそうです。
『ヴィレッジ』
2023年4月21日より全国公開
PG-12
KADOKAWA、スターサンズ
公式サイト
© 2023「ヴィレッジ」製作委員会
TEXT by Myson