REVIEW
ホン・サンス監督の長編第28作目となる本作は、ベルリン国際映画祭で5度目の銀熊賞を受賞しました。物語の舞台は、都会に佇む小さなアパートです。映画監督のビョンス(クォン・ヘヒョ)は、長らく疎遠になっていた娘のジョンス(パク・ミソ)と共に、インテリアデザイナーとして活躍する旧友のヘオク(イ・へヨン)が所有するアパートを訪れます。そのアパートは、地下がヘオクの作業場、1階はレストラン、2階は料理教室、3階は賃貸住宅、4階は芸術家向けのアトリエになっていて、こぢんまりとしながらも良い雰囲気の空間となっています。そして、このアパートが気に入った様子のビョンスと、4人の女性達の物語が展開していきます。
ある意味、キャラクターの一種ともいえる、この小さなアパートは、モノクロのシーンにとても映えて、アパートの前に広がる景色もどこか異国のような風情を漂わせています。登場人物達の何気ない日常を切り取ったシーンも、絵画や小説の挿絵のような空気感があり、親近感や臨場感がありながら、おとぎ話を観ているような距離感も与えています。本作はビョンスを軸に観るおもしろさと、4人の女性を軸に観るおもしろさがあります。序盤で描かれる、家の外の顔と家の中の顔、どちらが“本当のその人”なのかというような議論を念頭において観ると、ビョンスは大変興味深い人物です。接する女性によって彼はさまざまな顔を見せます。また、彼は孤独を必要としているような描写がありながら、女性なしでは生きられないような生活を送っていて、その矛盾がいかにも人間的です。
ホン・サンス監督の作品は、何気ない会話の中で人間の本質を鋭く突く点が秀逸です。人との間の気まずさや、遠慮の中に垣間見える図々しさ、わがままに隠された愛や、関心に見える無関心というように、行間に描かれた人間味に溢れています。本作も何度も噛みしめたくなる1作です。
デート向き映画判定
とあるキャラクターの恋愛模様が描かれていて、似たようなタイプと交際中の方からすると、「むむむむ!」と思うかもしれません(苦笑)。ただ、何がどうなったのかまでは良い意味で謎のままなので、恋愛における人間ウォッチングと思って観ると、カップルで観ても気まずいことはなさそうです。
キッズ&ティーン向き映画判定
日常を切り取ったシーンで構成されていて、見た目に派手な出来事が起こるわけではないだけに、観る方によってはキョトンとしてしまうかもしれません。人生経験を積んで、いろいろなタイプの映画に慣れてから観たほうが、想像を膨らませて、さまざまな解釈で一層楽しめるようになると思います。
『WALK UP』
2024年6月28日より全国順次公開
ミモザフィルムズ
公式サイト
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TEXT by Myson
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情報は2024年6月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。