タイトルにゾンビとついてますが、ゾンビ映画ではありません。両親を失い、たまたま同じ時に葬儀場にいた4人の13歳の少年少女、ヒカリ、イシ、タケムラ、イクコが、失った心を取り戻していく心理的アドベンチャーです。普通ならさらけ出したくない感情を素直に受けとめながら、前に進んでいく4人。決して綺麗事だけを見ていては生きていられない人間社会を、彼らの目線を通して正直に描いている点でとても共感できます。RPGゲームを進んでいくような感覚で展開される演出が印象的ですが、特に音の使い方に長けていて、わざわざ見せないことで想像を膨らませる音を効果的に使ったシーンがたくさんあります。長久允監督は本作が長編映画初監督とのことですが、この独特の表現力は生まれ持ってのセンスとともに、CM業界で培ってきたセンスでもあるのかなと興味深く感じました。そして、4人がバンド“LITTLE ZOMBIES”を組んで歌う楽曲は、ブルックリンを拠点に活動していたLOVE SPREAD(RyotaとNarumiにより2014年に結成されるも、2018年11月にRyotaが急逝)によるもので、一度聴いたら耳に残る曲は、大きな存在感を放っています。さらにアーティスティックな衣装は、writtenafterwordsの山縣良和、ヘアメイクはハイブランドのランウェイを手掛ける加茂克也、美術セットデザインは、アーティストユニットmagmaが手掛けるなど、気鋭のアーティストがたくさん参加しているのも本作の魅力です。
この4人のキャラクターを演じた、二宮慶多、水野哲志、奥村門土、中島セナは、脇を固める超豪華俳優陣の演技にも負けない演技力で、感情があるのに、感情を表に出せないという難役を好演しています。中でも紅一点、イクコを演じた中島セナの大人びた雰囲気とクールな芝居が印象的で、将来大女優になるのではと期待大です。いろいろと見どころが詰まった作品ですが、この厳しさの中に優しさが溢れたストーリーは、老若男女問わず、硬くなってしまった心をほぐしてくれるはずです。
物語はもちろん、音楽、アートと、いろいろな要素が見どころとなっているので、誰が観ても何かしら興味を持てるところはあると思います。独特な世界観なので多少好き嫌いが出てくる可能性はありますが、初デートでなければ、大丈夫だと思います。お子さんがいる夫婦で観ても、親目線で会話をするきっかけになるのではないでしょうか。
13歳の4人の少年少女が主人公なので、ティーンの皆さんは等身大で感情移入できると思います。日頃、薄々疑問に思っていることや、解せないと思っていることを、4人のキャラクター達の物語を通して、自分なりに解釈するきっかけになると思います。120分と少々長めで、“死”という概念がテーマの1つとなっているので、キッズには少々難しいかも知れませんが、中学生以上なら、個性的な演出が施されているので、興味を持って観られるでしょう。
『ウィーアーリトルゾンビーズ』
2019年6月14日より全国公開
日活
公式サイト
©2019“WE ARE LITTLE ZOMBIES”FILM PARTNERS
TEXT by Myson