女性が男性から暴行を受け、身を守らなくてはいけない状況に置かれた時、どんな選択肢があるのでしょうか。同時に、そこに留まる場合、不本意でも相手を赦すことが暗黙の条件になっていたら、女性に与えられた本当の選択肢とは何なのでしょうか。本作では、そんな状況下に置かれた女性達が集まり、どの選択が最善かを話し合う様子が描かれています。
本作はカナダの作家ミリアム・トウズによる「Women talking」を原作としています。映画の中の人々の生活には現代的なモノが見当たらず、少なくとも百年以上前のような出来事かと見まがいます。でも、実は物語の舞台は2010年であることがわかり驚きます。この原作は、ボリビアの宗教コミュニティ内で実際に起きた出来事から着想を得たとされています。この宗教コミュニティは“メノナイト”と呼ばれる人達で形成され、彼等は文明、俗世から距離を置いた生活を送っています。よって、恐らくコミュニティの外の情報も遮断され、厳格に宗教の教えにそって暮らしていると見られ、私達日本人の社会よりも一層男尊女卑が強く残っているのが見て取れます。
信仰心を強く持つ彼女達は、これまで信仰を基に正しいとされてきた選択をとってきました。でも、それでは自分も子どもも守れないという状況まで追い込まれています。また、強姦を繰り返す男達に対してもさまざまな感情を持っています。そんななか、自分達を傷つけた者を赦し、彼等を野放しにしてきた社会で妥協して生き続けるか、はたまた闘うか、村を去るかで議論します。始めは、赦す、闘う、去るの3択から始まりますが、やがてそれぞれの選択が何を意味するのか、その選択が何をもたらすのかという議論に発展していきます。彼女達の議論を聞いていると、女性に選択肢があるようで“ない”、厳密には妥協に過ぎないことがよくわかります。それでも、このままではいられない、いたくないという思いから、彼女達は前へ進もうと議論します。それぞれに抱えている思いも違い、見方も異なります。そんな彼女達がさまざまな視点で語る姿から多くのことを学べます。
悲しいのは、どの選択でも大きな犠牲を払うのは女性であること。結局は女性達にとって、どの選択が1番腹落ちするのかという次元です。ただ、それでも考え方次第で前進できるよう皆で話し合い、お互いの思い、意見を尊重する女性達の姿に共感します。また、女性達の話し合いに唯一参加している男性書記は、男女の教育格差を示す象徴となっています。男性のみに教育が施されてきた現状に疑問を投げかけ、その教育内容に変化を求める姿勢がうかがえます。同時に、男性をひとまとめに否定するのではなく、男性に正しい教育を施すことでまだ救いようがあるという希望と、女性達の寛容さと聡明さ、先見の明が見て取れます。そして、書記を務めるオーガスト(ベン・ウィショー)が教師である点にも意味を感じます。これからの男性はこれまでと異なる教育を受ける必要があることを伝えていくには、男性の理解者こそが適任であり、男女が敵対するのではなく理解していく大切さも物語っています。
本作には強姦や暴力の被害にあえぐ女性達が奮闘する物語という域を超えて学べることがたくさんあります。女性だけでなく男性や子ども達にも観てさまざまなことを考えるきっかけにして欲しい1作です。
デートのムードを盛り上げる内容ではないものの、とても大切なことがたくさん描かれています。性別や年齢に関係なく、大事な人とぜひ共有して欲しい作品です。初デートで語り合うには少し重い内容ながら、何度か映画を一緒に観たことがあるカップルは、本作を観て感想を述べ合うと、一層お互いの人間性を理解できるかもしれません。理解できない思想が見つかったとしても、映画のキャラクター達の話合いがヒントになれば理想的です。徐々に分かり合えるように何ができるか考えてみて突破口があれば、関係は続けられるのではないでしょうか。
長きに渡り社会的に伝承されてきた価値観に疑問を呈することも必要です。今までは当たり前であってもすべて正しいとは限りません。誰もが幸せに安心して暮らせる社会にするには何が必要か、考えるきっかけにぜひ観て欲しい作品です。若い皆さんにはまだまだ希望が残されています。若い皆さんにとってたくさんの選択肢がある社会になれば良いなと思います。そんな思いが託された作品ともいえるでしょう。
『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
2023年6月2日より全国公開
パルコ、ユニバーサル映画
公式サイト
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TEXT by Myson