アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督が故郷のメキシコで撮影した本作は、幻想的な風景と強烈なインパクトを残すシーンで彩られています。映画が始まってすぐ、観客は「ここは一体???」という感覚に引きずりこまれるはず。主人公は、ジャーナリストでドキュメンタリー映画製作者のシルヴェリオ。本作は、シルヴェリオの心の旅をファンタジックな描写で綴っています。
彼の心の中の不安や葛藤は時にユーモラスに、時にセンセーショナルに表現されています。本作の世界はとても混沌としていて、つじつまや理屈を考えながら観ると、迷子になるかもしれません。だから、この映画を観るなら、難しいことは考えず、まずは主人公のシルヴェリオと共にこの世界に没入してさまざまな感情を味わうのが良いでしょう。まさに、言語化できないさまざまな感情が湧き出てくるのではないでしょうか。これこそが映画がなせる技、つまり説明ではなく表現であり、イニャリトゥ監督の手腕を感じます。
メキシコがどのような国かを描いている点も印象的です。シルヴェリオは国外に出たメキシコ人であり、メキシコという国の良さを知っていながら、影の部分も知っています。メキシコへの複雑な思いも綴られているからこそ、愛国心が感じられるストーリーでもあります。
正直なところ個人的には1度観ただけでは消化不良のところが多く、何回かじっくり観てみたくなる作品です。
観ようによってはユーモラスだけれど、見た目だけでいうとショッキングともいえるシーンが出てきます。また、ヌードも出てくるので、ウブなカップルだとちょっと気まずい空気になるかもしれません(苦笑)。映画館で観るのと、Netflixの配信を家で観るのとではムードが変わりそうですが、いずれにしても1人でじっくり観るのに向いている作品であるように思います。
考えずに感覚で観るのが得意な若い方なりに楽しめる要素はありそうですが、映画を観慣れていない方や、派手でわかりやすい展開の映画が好きな方は消化不良を起こす可能性があります。大人になればなるほど通じるものを感じられそうな内容でもあるので、今観てピンとこなくても、また大人になってから再度観てみると良いのではないでしょうか。
『バルド、偽りの記録と一握りの真実』
2022年11月18日より一部劇場にて公開中、12月16日よりNetflixにて配信開始
劇場用公式サイト Netflix公式サイト
TEXT by Myson