本作は薬物依存症の実態を生々しく描いた親子のドラマで、実話をもとにしています。ティモシー・シャラメが依存症の若者ニックを演じ、その父デヴィッドをスティーヴ・カレルが演じています。アメリカでは若者の死因1位が薬物中毒というのもショックですが、父と息子はとても仲が良く、お互いに愛し合っていることはわかっていながら、それでも薬物依存から抜け出す、抜け出させるのは容易ではないことが実感できる内容になっています。心が内向きなニックの心情は、決して珍しいことではなく、私自身もこういう傾向を感じることがあります。だからこそ孤独を好む気持ちにも共感できる。でも、家族や友人達と触れあうことが嫌いなわけではないんです。ただ優しくされればされるほど、不思議と孤独感が増したり、人と接すれば接するほど疲れることもあって、これは自分ではどうしようもない感情です。ニックがこういう心情だったかはもちろんわからないし、想像の範囲ですが、父を愛しているからこそ心配をかけまいとして、自分の心の中だけに苦しみを抱えて、それに耐えきれなくなったのかも知れません。彼の場合は逃げ道がドラッグでしたが、人によってそれは様々。健全な逃げ道を探せれば良いですが、日常でドラッグが簡単に手に入る環境はやっぱり害だなとつくづく感じたし、誰もがいつ陥るかわからない点で他人事ではありません。日本でもさまざまなニュースから、徐々にドラッグの浸透が進んできて、意外に身近にあるのだと不安になりますが、それを使ってしまう人だけでなく、周囲の人間の在り方も考えさせられる作品となっています。
薬物中毒と闘う親子の物語で、ロマンチックな展開はなく、デート向きではありません。ただ人間の心はとても複雑で、大人になるほど外面と内面にギャップができ、周囲には見せない顔があることがわかります。相手が何かに悩んでいるようなのに、それを隠そうとしているように思う人は、本作観賞をきっかけに、普段話しづらいことなどを話し合うのもアリかも知れません。
R-15なので15歳未満の人は観られません。高校生以上の人はニックと世代が近いし、彼が抱えている心情にリアルに共感できると思います。どんな性格の人でも、悩みを抱えて苦しむことはあって、いつでもそれを上手く突破できるとは限りません。そして優しい人、真面目な人こそ、自分の中にいろいろため込んでしまいます。でもそこで誤った方向に陥ってもっと辛い状況にならないように、自分だったらどうすれば良いのか、友達などがこういう状況になったら何ができるか、考えてみるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
『ビューティフル・ボーイ』
2019年4月12日より全国公開
R-15
ファントム・フィルム
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TEXT by Myson