リハビリ施設を抜けだし実家に帰ってきた薬物依存症の息子と母親を中心とした物語で、母の愛は偉大で美しいというような美談ではなく、どんなに子どもを愛している母親でも、子どもに対してどうして良いかわからないこともあるし、正しいかどうか最後まで答えがわからない場合もあるという現実を突きつけられる内容です。「子どもを信じてあげられるのは自分だけ」という思いと、「守りたいからこそ子どもの嘘を見抜かなければ」という思いで葛藤を抱えながら息子と向き合う母親をジュリア・ロバーツが好演しており、こういう極端な状況でなくても、親はいつもこういう気持ちなんだなとリアルに体感させられます。
この作品に限らず語られていることですが、薬物依存症の原因として、非行から薬に手を出すだけではなく、怪我や病気の治療の一環として処方された薬がきっかけとなるケースがあります。だからこそ誰にでも起こりえることで、依存症になった人の人格や意志の弱さの問題だけではないことがわかって、身近な問題に思えるはずです。本作のベンも家族思いの優しい青年で、家族に心配、迷惑をかけまいと必死ですが、彼のように“まさか”という人物でもこういう問題に陥るという点で、他人事として観られません。そして、家族が大きな問題を抱えた時、やはり助けられるのは家族だけであり、お互いに失敗しても、答えが見つからなくても、向き合うことをやめてはいけないのだなと感じました。
本作の監督ピーター・ヘッジズと、ベンを演じたルーカス・ヘッジズは実際の親子で、ルーカスは父親の作品には絶対に出ないと言っていたのを、ジュリア・ロバーツが覆して出演を説得したそうですが、この深い家族の物語を才能ある本物の親子が携わって作ったと思うと、余計に感慨深いです。
ロマンチックなムードになるストーリーではなく、重いテーマですが、大切な人を守るとはどういうことかを考えさせられる内容なので、鑑賞後に感想などを語り合うと、お互いの家族観を知ることができそうです。大切だからこそ心配をかけまいと本当のことを言わない時もありますが、そういう時こそお互いにどうするか決め事をするきっかけにするのも良いかも知れません。
大きくなってくると、自分だけで責任を取らなければいけないと抱えこんだり、家族に心配をかけまいとして余計に泥沼に陥ったりする人もいるでしょう。家族がしつこく詮索してきたり、干渉してくるのがうっとうしいと感じることもあると思いますが、自分のことのように心配してくれるのは家族だからです。本作を観ると、どんなことがあっても簡単には切れない家族の絆を信じられるはずです。
『ベン・イズ・バック』
2019年5月24日より全国公開
東和ピクチャーズ
公式サイト
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TEXT by Myson
- イイ男セレクション/コートニー・B・ヴァンス
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