2012に出版されたベストセラー、マリア・センプル著「where’d you go bernadette」を、リチャード・リンクレイター監督、ケイト・ブランシェット主演で映画化した本作は、包容力抜群です。前半と後半でガラッとトーンが変わる点も魅力で、その背景には意外性もあり、極力前情報を入れずに観ることをオススメします。
シアトルに暮らすバーナデット(ケイト・ブランシェット)は、一人娘のビーと親友のような関係で、夫は一流IT企業に勤め、一見優雅に暮らしているように見えます。でも、バーナデットは人間関係が極端に苦手で、娘の送り迎え以外はほとんど家で過ごしています。ここから先は映画で観ていただくとして、バーナデットはあることをきっかけに現実と向き合わなければいけなくなります。その過程で、彼女の内面がそれまでどういう状態にあったのか、過去に何があって、これからどうなっていくのかが描かれていきます。
序盤では、バーナデットが毒舌でサバサバしているキャラクターとして描かれているからこそ、後半で明かされる彼女が抱えてきたものの重みが際立ちます。ひょんなことから彼女が変わらざるを得なくなり、再生していく姿はとても清々しく、勇気と希望を与えてくれます。ケイト・ブランシェットが演じるバーナデットはもちろんのこと、クリステン・ウィグが演じるママ友も魅力的で現実味のあるキャラクターとして描かれています。リチャード・リンクレイター監督が紡ぎ出す空気感はとても優しくて、やっぱりリチャード・リンクレイター監督作にハズレなしだなと実感します。劇中劇のドキュメンタリーもあまりにリアルなのがクスッと笑えて、これはこれで独立して観たくなります(笑)。一部重いテーマを扱っていながら、絶妙な軽やかさで、すんなりと物語に世界に入って行ける点にもリチャード・リンクレイター監督の手腕を感じます。本作は、ストーリー、演出、演技力、三拍子揃っています。世のお母さん達に観て欲しいと同時に、普遍的なテーマを扱っているので、老若男女問わずオススメです。
夫婦の在り方も1つのテーマとなっていて、真剣交際中のカップルや夫婦で観て欲しい作品です。家族として大切にしたいもの、個人として大切にしたいもの、それぞれの大切さを実感させられるストーリーです。「家族のために」という大義名分で、それぞれが我慢したり妥協することはあったとして、逆にその我慢や妥協によって本人が無意識に苦しんでいるとしたら、家族としても悲しいことです。そんなことを客観視する機会をぜひ共有してください。
皆さんは今は娘のビーの視点で観つつ、大人になってからまた観てみると、感じ方の変化があるかもしれません。親の内面について想像を膨らませながら観ても良し、自分の将来の姿をシミュレーションするのも良いでしょう。もし、皆さんが将来誰かと一緒に人生を歩むとしたら、どんな壁にぶつかるのか、1つの参考になると思います。
『バーナデット ママは行方不明』
2023年9月22日より全国公開
ロングライド
公式サイト
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Wilson Webb / Annapurna Pictures
TEXT by Myson
本ページの情報は2023年9月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。