本作は、ロンドンにある高級レストランの一夜の物語を全編90分のワンショットで捉えています。驚くのは、本作がCGも編集もなしに作られている点で、90分で捉えた映像がそのまま観客の元へと届けられています。そういう意味では舞台観劇の感覚に近いのかもしれません。本作の場合は舞台上ではなく実在するレストランで撮影が行われ、素晴らしいカメラワークや監督の演出、役者達の見事な演技など、すべての要素が揃って1本の映画として完成しています。
物語の主人公でオーナーシェフのアンディ(スティーヴン・グレアム)は、妻子と別居生活を送り、仕事も多忙で疲弊しています。本作ではそんな彼が厨房に立って料理をしたり、部下達に指示を出したり、時にはイライラする姿が映し出されています。さらに店内には、さまざまな従業員やお客さんがいて、少しずつレストラン内の人物相関図が見えてきます。カメラはアンディを追っている時もあれば、他の従業員を追っている時もあり、「あっちでこんなことが起きたと思ったら、今度はこっちで…」という展開も多いので、観客もレストランの中にいるような感覚になって楽しめます。
アンディを演じたスティーヴン・グレアムをはじめ、ヴィネット・ロビンソン、ジェイソン・フレミング他、俳優達の演技もとても際立っていて、一人ひとりが本作において重要な役割を果たしています。そして、本作を見事に完成させたフィリップ・バランティーニ監督にも拍手を送りたくなります。「たった90分でこんなにいろいろな事が起きるの!?」と驚くシーンがたくさんあり、内容、演出共にとても見応えがある作品です。映画好きはもちろん、多くの人にオススメしたい1作です。
恋愛要素はほぼありませんが、リアルな人間関係を目の当たりにすることができるので、恋愛でも役に立つ部分がありそうです。何気ない発言が誰かを傷つけてしまったり、小さな出来事が後に大きな事件に発展してしまうといったシーンもあるので、パートナーとの関係に置き換えて観たら、揉め事を未然に防ぐことができそうです。
レストランの舞台裏を観ることができるので、皆さんもお仕事体験的に観られます。ただし、中には遅刻をしたり、サボったりする従業員もいるので、そういった人達は反面教師として観てください。ティーンの場合は、レストランで働く人達を客観的に観て、人間関係やチームワークに注目してください。レストラン全体の上手い連携方法を見つけられたら、オーナーに向いているかもしれません(笑)。
『ボイリング・ポイント/沸騰』
2022年7月15日より全国公開
PG-12
セテラ・インターナショナル
公式サイト
© MMXX Ascendant Films Limited
TEXT by Shamy