舞台はベルリンの壁建設の5年前にあたる1956年、ソ連の影響下に置かれていた旧東ドイツ。ここで高校に通っていた生徒達が実際に起こした出来事を映画化しています。生徒達の一部が、何らかの理由をつけて西ドイツを訪れたり、禁止されている内容のラジオをこっそりと聞いたり、始めのうちは好奇心旺盛な若者達がスリルを味わいたくてやっているだけのようにも見えますが、授業中に起こしたある行動が引き金となり、政治的意味を持つ反逆として、大ごとになっていきます。誰かに責任を負わせないと幕引きができないと考える大人達は、首謀者を差し出すように生徒達に迫り、彼等はそこで友情や政治的姿勢、人としての生き方が問われることになります。高校生にここまでしなければいけないのかと、あまりに抑圧的で不自由な統制に驚くと同時に、これまで社会主義国の実態を描いた作品はいくつかありましたが、社会主義で国を統制するのに必要な方法って、こういうことしかないのかと考えさせられます。扱っている問題は難しいですが、本作は高校生が起こした出来事を軸に描かれているので、ソ連とドイツの関係や西ドイツと東ドイツの違いなど歴史上の社会的背景や、子ども達が急に大人にならざるを得ない状況のなかで成長していく様子、苦しい肉体労働をする以外の未来を作ってあげたいと願う親達の思いが身近なこととして伝わってきます。若い俳優達の名演も見ものですよ。
友情物語、親子の物語としても観ることができ、ラブストーリーも少し入っていますが、社会派ドラマなのでデート向きという感じではありません。ベルリンの壁、西ドイツ、東ドイツ、社会主義というキーワードが歴史的に示す意味をある程度理解していないとピンとこない部分があるかも知れないので、歴史の勉強が苦手な人を誘う場合は、多少基本的な知識だけは入れてから観たほうが良さそうです。
観ているうちにドラマチックな展開に引き込まれますが、実話だとふと思い出すと、本当に過酷な状況だなと実感できると思います。運命は変えられるという考え方もありますが、どの時代にどの国に生まれるのかって、自分達が思っている以上に大きなことで、自由に選択できる時代、国に生まれたことに改めて感謝も感じさせられるストーリーです。皆さんと同じ学生達の物語なので、観て感じ取れることがたくさんあると思います。
『僕たちは希望という名の列車に乗った』
2019年5月17日より全国公開
PG-12
アルバトロス・フィルム、クロックワークス
公式サイト
© Studiocanal GmbH Julia Terjung
TEXT by Myson