本作はスティーヴン・スピルバーグの自伝的作品とされており、映画に魅了された少年が映画監督を目指すまでを描いています。主人公のサミー・フェイブルマンは映画館で映画を観てから、8㎜カメラでさまざまなものを撮影していきます。でも、カメラには、彼の作品や楽しい思い出ばかりではなく、家族や周囲の人々の真の姿も収められていきます。そこには観たいもの、観たくないものの両方があり、サミーは映画というものはある意味残酷であり、真実を捉えるものであるということを知っていきます。このサミーの成長物語には、映画監督としてどんな覚悟が必要かが語られているように感じられ、それはそのままスピルバーグがこれまで作品作りで大切にしてきたことのようにも捉えられます。
また、家族の問題、学校での悩み事、映画監督を目指す上での苦労を感じている時、サミーのそばにはいつも映画があって、それがそのまま映画作りのヒントに繋がっていったのだという展開には、サミーは映画監督になるべくして生まれたというような運命的なものを感じます。さらに、クライマックスでサミーが八方ふさがりになった状態で起きるひょんな出来事はまさに映画マジック!これはスピルバーグの原体験を描いた作品ですが、スピルバーグに限らず、映画に魅了され、無我夢中で映画の世界に何とか入ろうともがいてきた人達は、極限まで耐えつつ、もうダメだと挫折しそうな時に、こういったミラクルを体験してきたからこそ、真実も理想も見せてくれる映画を作ったり、映画を届ける仕事に就いているのではないでしょうか。僭越ながら私も映画にまつわる仕事をしたいという思い一つで東京にやってきて、いろいろな奇跡を体験しました。そんな自分の体験ともすごく重なって、改めて映画の力を実感し、感謝の気持ちでいっぱいになりました。
本作で紡がれていくサミーの体験、周囲の人々との会話の一つひとつは、それがどんなに辛いもの悲しいものであってもすべてキラキラしていて、これこそが映画の真髄だと感じると同時に、スピルバーグはやっぱり生まれつきの映画監督だなと実感します。サミーの母の言葉「すべての出来事に意味がある」も、スピルバーグの生き方、映画作りの礎になっているのではないでしょうか。映画館で何度も味わいつつ、ブルーレイが出たら手元に置いていつでも観られるようにしたい作品です。
本作で描かれるいくつかの恋愛関係が、主人公の運命にも大きく影響をもたらしています。ロマンチックなだけではなく、苦い部分もあるので、デートで観るとどういう化学反応を起こすのか未知数です。何となく今の恋愛に迷いがある方、将来に自信が持てていない方は一旦1人でじっくり観るほうが良いかもしれません。
主人公が幼少の頃に映画に魅了され、映画監督を目指す過程を描いていて、キッズやティーンの皆さんが等身大で観られる内容です。ただし、家族の複雑な状況も描かれていて、どう受けとめたらよいのか戸惑う部分もあると思います。PG-12となっているので大人と一緒なら小学生も観られますが、自分で理解して、自分の心と向き合いながら観るには、せめて中学生くらいになってから観ることをオススメします。
『フェイブルマンズ』
2023年3月3日より全国公開
PG-12
東宝東和
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TEXT by Myson