家族になるとはどういうことか、本作を観るとさまざまな家族の形、家族の定義があると感じます。本作の主人公は、陶器職人の神谷誠治(役所広司)。妻は亡くなり、一人息子の学(吉沢亮)は仕事でアルジェリアに赴任中のため、誠治は山里で1人で暮らしています。誠治の住む隣町には在日ブラジル人が多く住んでおり、ある日トラブルに巻き込まれたマルコス(サガエルカス)は、地元を仕切るグループから追われ、逃走中にたまたま誠治の家を見つけます。そうして出会った誠治とマルコスは徐々に交流するようになりますが、2人は思わぬ事態に追い込まれていきます。
本作では、2つの大きな出来事が同時進行し、緊張感が張り詰めたシーンも多く、孤独な者同士が心を通わせ助け合う姿が温かく映るからこそ、その幸せが壊されないようにとドキドキしながら見守る思いで観てしまいます。やるせない出来事が多すぎて、観ていて切なくなりますが、それだけでは終わらないのが本作の魅力。暗くて冷たい社会でも、生き残れるのは人と人との絆があるからであり、この世もまだ捨てたものではないと思わせてくれます。
俳優陣の演技も見事で、サガエルカス、ワケドファジレ、アリまらい果、シマダアラン、スミダグスタボは皆今回が演技初挑戦というから驚き。特にマルコス役のサガエルカスは独特のオーラもあって今後の活躍にも期待です。また、主演の役所広司と友人役の佐藤浩市の2ショットシーンでは、2人の佇まいと貫禄にしびれます。
個人的な恨みと偏見を持つ者が無関係の弱者を痛めつける場面もいれば、ささやかな幸せを噛みしめる者達が交流する場面もあったり、まさに現代の縮図といえる作品です。緊張感が張りつめるなかでも、癒しや温かさを感じさせてくれます。年齢、性別、国籍問わず共感できると思います。
シリアスなテーマで、バイオレンスシーンもあり、デートムービーとはいえません。ただ、家族の絆や人と人との繋がりがテーマになっていて、人生観を問う内容なので、カップルで観ると、お互いの感想で価値観が合うかどうか、少し計れる部分があるかもしれませんね。観るなら、映画鑑賞がメインのデートの日に観るとよいのではないでしょうか。
PG-12なので大人と一緒なら小学生も観られますが、内容的に刺激が強い場面もあるので、やはり中学生以上になってから観るほうが良いと思います。本作には、大切な人のために一生懸命な人達が複数出てきます。簡単に真似ができることではありませんが、一つの心の在り方を知ることができると思います。
『ファミリア』
2023年1月6日より全国公開
PG-12
キノフィルムズ
公式サイト
©2022「ファミリア」製作委員会
TEXT by Myson