本作は、アフガニスタンに生まれたアミンが、父がタリバンに連れ去られた後、残された家族と一緒に祖国を脱出してからの一連の実話をアニメーションで描いたドキュメンタリー作品です。国を超えて皆が今考えなければいけない、移民、LGBTQといった問題をリアルに描き出している本作は、第94回アカデミー賞®(2022年開催)では、史上初となる国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞の3部門に同時ノミネートされた他、各国の映画祭で82の賞、136のノミネート(2022年4月12日現在)を受けています。さらに、本作に惚れ込んだ俳優のリズ・アーメッドとニコライ・コスター =ワルドーが製作総指揮として名を連ねていたり、全米批評サイト“ロッテントマト”では98%の高評価を得たりと話題も豊富です。
公式サイトによると、「英題である“FLEE”とは危険や災害、追跡者などから(安全な場所へ)逃げるという意味」とあります。アミン一家は、安全に暮らせなくなった祖国アフガニスタンを脱出して、一旦ロシアに渡ります。そこでも治安は悪化していて、早く安心して住める国に移ろうとしますが、密入国の費用は高額で家族が1度に行くことができません。また、やっと手筈が整っても、移動中は劣悪な環境に追いやられ、命懸けで亡命しなければいけない現状が語られています。実写で表現が難しいところもアニメだからこそ再現されていて、アミン一家がどれほど恐ろしい状況に陥っていたかがリアルに伝わってきます。アミン達の体験は今もどこかで起きていることだと思うと信じられません。でも、アミン一家がお互いに助け合い、生き延びる姿から人の温かさこそが最後の救いだと伝わってきます。このアニメーションのタッチにもその温かさが表れていて、アニメーションで表現している効果がとても感じられます。社会情勢に興味がある方はもちろん、今気持ちが追い込まれている方、八方塞がりだと感じている方も、最後はとても穏やかな気持ちになれるのでぜひ観てください。
本作には、現在のアミンの生活ぶりも描かれています。一見安全に暮らせているように見えて、心はずっと過去のできごとに怯えていたり、そのことが恋愛に影響してトラウマがあったりと、複雑な心境も語られています。パートナーに言えないことがあり悩むアミンの姿も描かれていて、それは状況や内容は違えど、どんなカップルにも通じる点で、共感できるのではないでしょうか。本当に大切な相手なら、本作を一緒に観ることで、打ち明けるきっかけにできるかもしれません。
移民の人々の背景にはいろいろな事情があることを、本作を観て知ることは有意義だと思います。難しい内容ではありませんが、アフガニスタンやロシアなどのお国事情が少しわかっているほうが理解が進むので、観る前でも観た後でも映画に出てくる年にそれぞれの国でどんなことが起こっていたか調べてみてください。社会勉強になるのはもちろん、アミン一家の絆と愛情からも学べることがたくさんあります。
『FLEE フリー』
2022年6月10日より全国公開
トランスフォーマー
公式サイト
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TEXT by Myson