REVIEW
役所広司主演というだけで観ると決めていた本作を、毎度ながら前情報をほとんど入れずに観て、大好きな要素が続々と出てきたので心が躍りました。こういう映画を観た時には思わず私的な感想を述べたくなるもので、お許しください。
最初ファンタジー時代劇が始まったと思ったらシーンが一変し、本作は江戶時代の人気作家で「八犬伝」の著者、滝沢【曲亭】馬琴(役所広司)のお話だとわかります。作家自身のストーリーが大好物なので、まずその点で心が鷲づかみにされました。そして、「あれ?八犬伝って、あの八犬伝か!」となったんです。というのも、すっかり忘れていましたが、子どもの頃、薬師丸ひろ子と真田広之が出演していた『里見八犬伝』を観てすごくカッコいい映画で好きだった記憶が蘇りました。でも、そのわりには内容を全然覚えておらず(苦笑)、本作の中で出てくる「八犬伝」のストーリーも新鮮に観られたと同時に、久々に『里見八犬伝』も観返したいと思った次第です。
そして、何といっても見どころは、「八犬伝」が28年もの時をかけて書かれたという点です。映画公式資料によると、馬琴の「南総里見八犬伝」が完結したのは1842年だそうです。この小説は馬琴にとって、いち作品というより、生きる糧になっているように見えて、当時の人達にとっても、娯楽を超えたものだったのかもしれないと想像できます。また、ストーリーを作る上で、何が「実」で「虚」なのかという問答のシーンは、とても見応えがあります。娯楽とは人にとって何なのだろうと改めて考えさせられるとともに、社会における、“物語”の重みを実感します。さらに、本作を観て「八犬伝」には馬琴の生き様が反映されていたのだと知ると、語り継がれる作品は、人の心のよりどころとなるものなのだと実感します。
馬琴と葛飾北斎(内野聖陽)の関係も興味深く、そうした偉人を役所広司、内野聖陽という名優が演じている点でも見応えがあります。江戸時代にこうしたファンタジー小説を書いた馬琴の創造力に驚かされつつ、時代を問わない普遍的なテーマに心を動かされます。そして、本作は優れた作家の物語でありながら、私達の物語ともいえる点でぜひ観ていただきたい1作です。
デート向き映画判定
ラブストーリーの要素は軸ではないものの、自分の人生と家族の人生、両方について考えさせられるストーリーという点で、夫婦で観るのも良さそうです。一人の父として葛藤する馬琴の姿、妻の思いなど、あらゆる視点で観られます。クリエイティブな仕事をしている方や、エンタテインメント関連の仕事をしている方に一層刺さりそうなストーリーなので、当てはまる方は誘ってみてはいかがでしょうか。
キッズ&ティーン向き映画判定
上映時間が149分と長めで、現実世界と「八犬伝」のストーリーが並行して描かれているので、ある程度の集中力を要します。キッズには少々ハードルが高いと思う一方で、「富嶽三十六景」で知られる葛飾北斎や、「東海道四谷怪談」を作った鶴屋南北も登場するので、当時の日本史の勉強になる部分もあります。自ら興味を持ったなら年齢を問わずチャレンジしてみても良いでしょう。
『八犬伝』
2024年10月25日より全国公開
キノフィルムズ
公式サイト
© 2024『八犬伝』FILM PARTNERS.
TEXT by Myson
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情報は2024年10月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。