荻上直子監督と、主演の筒井真理子を始めとする俳優陣の実力を存分に感じる傑作です。まずそれぞれのキャラクターがとても魅力的です。主人公の須藤依子(筒井真理子)は、極限まで追い込まれ、怪しい新興宗教にハマる危なっかしさがありながら、正気を失っているのかのように見えて狡猾さと潔さは残っています。そんな彼女が何をしでかすかわからない様子に見入ってしまいます。また、依子が見せるいくつもの表情が、怖いやら笑えるやらで、筒井真理子の演技が見事です。光石研が演じる夫のキャラクターも多面的です。一見ダメ夫に見えながら、思いがけない言葉を発したり、弱さとその弱さを受け容れる強さを持ち合わせていてどこか憎めません。木野花が演じるキャラクターもいい加減さがあるかと思えば、重みのある言葉を吐いたり、さらにはクライマックスで予想外の一面を見せ、この物語の中ですごく良いスパイスとなっています。他にも、個性派俳優が勢揃いしていて、彼等の芝居はとても見応えがあります。
そして、何といってもストーリーがおもしろい!淡々と日常を描いているだけなのに、ドラマチックでスリリングです。人間には必ず表と裏があります。本作には、普段は表に出さない人間の本性が、良い面も悪い面も映し出されています。本作を観ていると、人がこうありたいと願って生きていてもうまくいかないのは、誰かと関わりながら生きている証拠なのだと感じます。人は波風を立たせ合いながらしか生きていけない。それを避けて生きるのは幸せなのかどうか、考えるきっかけになります。
不穏な空気しかない夫婦のやり取りががっつり生々しく出てきます(笑)。今は円満なカップルでも、ふと冷静に将来を想像してしまう方もいるでしょう。反面教師として観るならデートで観るのもありですが、現在まさに微妙な関係にある場合は、1人でじっくり観て自分達の関係を見直すきっかけにするほうが良さそうです。
子ども目線で観ると、かなり怖いと思います。お母さんがこんな風になってしまったらと想像すると、ただただ心配になるでしょう。大人になってから観るほうが一層感情移入できそうという意味でも、せめて大学生くらいになってから観るのが良いのではないでしょうか。
『波紋』
2023年5月26日より全国公開
ショウゲート
公式サイト
©2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ
TEXT by Myson