失業、貧困、ドラッグが蔓延する田舎町で育ったJ.D.ヴァンスの回想記「ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち」を映画化。薬物依存の母(エイミー・アダムス)に翻弄されてきたJ.D.(ガブリエル・バッソ)の人生を振り返り、母や、彼を支えた祖母(グレン・クローズ)、姉(ヘイリー・ベネット)への愛を綴る物語となっています。冒頭は自然豊かなシーンから始まり、家族が仲睦まじい様子も映るのですが、徐々にこの家族の闇が明かされていきます。それでもJ.D.がある時までピュアで優しい子のままなので根が本当に優しい子であるのが充分に伝わってくるのですが、やはり彼もまだ子どもで、劣悪な環境下に順応してしまいそうになります。そんな彼が地元から出て名門イェール大学に入ったのには、どんな経緯があるのか、気になるところですが、後半の描写で、その過程で祖母が大きな影響を与えていたことがわかります。祖母も娘が薬物依存になり、いろいろな葛藤を抱えていますが、同じ過ちを冒すまいと決意し、孫のJ.D.に向き合います。そんな祖母の姿と、祖母の苦労を目にして変わっていくJ.D.の姿、どちらにも胸を打たれます。
そして、大人になったJ.D.の物語も並行して進んでいきますが、地元から出て名門イェール大学に通う彼が大事なインターン面接のさなか、再び母がトラブルを起こしたことで、大きな選択に迫られる様子も描かれています。彼が過去を振り返り、どういう決断を下すのかが本作の肝となりますが、とても難しい決断を彼がどんな思いで下すのか、その意外な結末に、観る側は驚かされつつ救われます。もしこれがフィクションだったら説得力がなかったかもしれませんが、これが実話というところで、とても勇気をもらえます。出会えて良かったと思える1作です。
J.D.と恋人(フリーダ・ピント)の関係がとても素敵で、彼にとって彼女の存在が最後の砦とも言えます。大事な人の存在がいかにお互いを救うか、本作を観ると実感できます。家族の複雑な問題に大切な人を巻き込むのは避けたいところですが、悩みを打ち明けるだけでも状況が変わるかもしれません。こういう時こそお互いを信頼できるかどうかがその後一緒にいられるかを決めると言っても良いと思いますが、そんなシミュレーションとして本作を一緒に観てみるのも良さそうです。
薬物依存でなくても、アルコール依存症など、親御さんが問題を抱えていて、本作の主人公J.D.と同じような境遇で悩んでいる人がいたら、ぜひ観て欲しい1作です。家族にとって、自分にとって何が最善か、それを決めるのは本当に難しいし、表面的なことだけ対処してもずっと解決できません。家族だからこそ負の連鎖が続いてしまうということもありますが、それを断ち切るために決断した人の例として本作を観ると、自然に勇気が湧いてくるかもしれません。
『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』
2020年11月24日よりNetflixにて配信中/11月13日より劇場公開
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TEXT by Myson