REVIEW
終戦後の日本を舞台にした本作は、戦争が終わっても苦しみ続ける人達の姿を映しています。まだ幼いながらもなんとか1人で生きている少年が、孤独に生きる女性、トラウマを抱えて生きる元兵士など大人達を見つめる眼差しが特徴的です。
それぞれのキャラクターの背景は最初わからず、皆自分が生きるのに必死で、信じて良い相手なのか、悪者なのかわからず、終始緊張感が漂います。一方で、お互いの関わり合いによって安らぎがもたらされるシーンもあり、観ている側も感情の揺らぎを体感できます。セリフで多くを語らず、風景やキャラクター達のふとした言動によって、戦後の世界の異質さを描いている点も秀逸。塚本晋也監督の演出力を感じます。
俳優達の演技も見ものです。趣里は、時に静かに、時に激しく、感情を表現していて、キャラクターの心が揺れ動く様を見事に体現しています。寝転ぶ後ろ姿が映されたシーンでは、素肌が見えている足が何とも美しく艶めかしくて、芸術性も感じられます。また、森山未来も神秘的なキャラクターを好演。何を考えているのかわからない怖さもあり、観ていてハラハラさせられます。そして、何といっても子役の塚尾桜雅の演技が素晴らしいです。特有の佇まいがあり、子どもらしさ、自然な演技に惹きつけられます。
現代もある意味生き残るのに必死にならざるをえない状況です。周囲を敵とみなして生きるのか、支え合う者とみなして生きるのか、辛くても正しくあろうとするのか、辛さを言い訳に人の道を踏み外すのか。本作は現代に生きる私達にさまざまな問いを投げかけてきます。
テーマが重く、濡場もあり、デートムービーとはいえません。ただ見応えはあり、人生観を問う内容なので、映画鑑賞後に語るのが好きなカップルは一緒に観るのも良さそうです。それぞれの登場人物の言動をどう解釈したかによって、お互いの物の見方を垣間見ることができるでしょう。
皆さんは、“坊や”と呼ばれる少年の目線で本作の過酷な世界を体感できるところがあるでしょう。大人でも食べる物、寝る場所に困る状況で、幼い少年がどうやって生きていくのかを観て、自分ならどうするか、何ができるのか考えてみるのも良いですね。彼がさまざまな経験を経て成長する姿に学べることもあると思います。
『ほかげ』
2023年11月25日より全国順次公開
新日本映画社
公式サイト
©2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
TEXT by Myson
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情報は2023年11月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。