力強い“波”の絵で知られる葛飾北斎の物語。ゴッホやモネなど世界的に知られるアーティストに影響を与えた北斎は、遠い存在に思えますが、本作に登場する北斎はただひたすら描くことに夢中で、とてもピュアな人。こんなに不器用な人だったのかと親近感を覚えます。才能を持ちつつまだ華開く前の北斎は、助言を受けても素直に聞けませんが、そんな彼に刺激を与える人物として、写楽が出てきたり、きっかけを掴んだ北斎が物語の挿絵を手掛けるくだりなど、前半はサクセスストーリーとして楽しめます。晩年を描いた後半では、彼が芸術に命をかけていた生き様が描かれていて、芸術で世界を変えられるのかという問いが投げかけられ、彼の作品に込められた思いの重さをひしひしと感じます。美術の知識がある人のほうが深いところまで理解しながら鑑賞できそうですが、私のように「北斎といえば、あの波の絵」という程度の知識でも、知られざる北斎の人間像を知り、新鮮な気持ちで観ることができます。絵の力ってスゴいなと改めて実感させられる1作です。
こういう人を旦那さんに持つと大変そうだなと思いつつ、不器用ながらも妻を大切にする姿が描かれているので、古風なカップルは特に親近感を持ちながら観られると思います。ただ夫婦の物語に触れられているのはごく一部なので、自分達を投影して観てしまうというほどではなく、シンプルに葛飾北斎の物語を観るというスタンスで、気まずくなるようなことはないでしょう。美術、芸術に関心が深い人と、そうでない人とが一緒に観ると、のめり込み具合に多少ギャップがあるのかなと思うので、熱量があまりに高い人は、誘う相手を選んだほうが良さそうです。
中学生くらいになると、自分の興味もだんだん固まってくる人もいるので、絵に興味がある人はぜひ観て欲しいと思います。天才と言われる偉人でも、こんなに苦労したんだなということを知ることができるし、自分の能力を開花させるには、人との出会いも大切だなと感じられると思います。我流で技を磨き、自分のスタイルを大切にする人は、人に習ったり、アドバイスを受けることに抵抗があると思いますが、葛飾北斎はどうしたのかを観ると、ちょっと心を開けるのではないでしょうか。
『HOKUSAI』
2021年5月28日より全国公開
SDP
公式サイト
©2020 HOKUSAI MOVIE
TEXT by Myson