だんだん記憶を失いつつある母親と、その姿に困惑する息子の物語。原作は本作で監督、共同脚本を務める川村元気の同名小説です。本作に登場する母親(原田美枝子)の言動は、見てすぐに認知症なのだとわかります。ただ、それにしても息子(菅田将暉)の戸惑い方は別の何かを感じさせます。ここにドラマがあって、物語が進むにつれ、真相がわかっていきます。
本作は、現代と息子が幼少の頃のシーンで構成されています。シーンのあちらこちらに、何か引っかかるポイントがあり、伏線がはられています。過去に何があるのかを知らずに観るのと、知った上で観るのとで本作の印象も変わりそうです。そういう意味で、原作を読んでから観る、映画から先に観る、どちらでも楽しめそうです。個人的にはなるべく情報を入れずに観ていただきたいので、これ以上は書きませんが、過去のいろいろがあるからこそ息子の心情が激しく揺れ動き、複雑な心境になっているのが伝わってきます。
本作を観れば、誰もが自分の親子関係、親子の思い出を振り返らずにはいられないと思います。自分にとって大切な思い出を親が忘れているとショックを受けることもあるかもしれません。でも、子どもが知らない親の思いを知ることができると思います。もし今、親子でギクシャクしている方がいたら、本作を観ると少し心をほぐすことができるのではないでしょうか。
家族の話としてはかなり重い内容が描かれています。同様の過去を抱えている方にとっては、気持ちの整理がついていない状態でデートで観るのは落ち着かないかもしれません。なので、初デートというよりは、2人の関係が安定してきて、もっと私的な深い話をしても大丈夫かなと思えるようになったら、デートで観るのもアリだと思います。
幼いキッズにはまだ難しい内容です。小学校高学年以上もしくは中学生以上なら、だんだん親や大人の様子にも敏感になってくるので、本作を観て何かしら感じることがありそうです。大人の事情をわかる必要はありませんが、客観的に状況を観ることができれば、自分自身の気持ちも少し落ちつかせることができるかもしれません。
『百花』
2022年9月9日より全国公開
東宝
公式サイト
© 2022「百花」製作委員会
TEXT by Myson