REVIEW
プロの音楽家として成功することは難しいと、誰もが知っています。でも、女性というだけで、より厳しい道となるのだなと本作を観ると実感します。本作は、世界中でわずか6%しか女性指揮者がいない状況で指揮者を目指したザイア・ジウアニの実話を基にした作品です。
アルジェリア移民の家庭に生まれたザイア・ジウアニ(ウーヤラ・アマムラ)と、双子のの妹で一流のチェロ奏者を目指すフェットゥマ(リナ・エル・アラビ)は才能が認められ、地元で通う音楽院と並行して、パリにある富裕層の子ども達が通う音楽院へ編入します。そこでザイアは指揮者を志望していると宣言するものの、それを快く思わない男子達にからかわれたり、練習を妨害されたりします。そんななか、特別授業のために訪れた、世界的な巨匠、指揮者のセルジュ・チェリビダッケの目に留まり、ザイアは直接指導を受けることになります。そうして、ザイアは少しずつ自信を得ていくものの、やはり壁が立ちはだかります。
楽器は高価なので、音楽の道に進める人とそうでない人が分かれてしまう経済格差の影響は現代でも同じでしょう。でも、本作を観ると、その枠に入ってからもまた経済格差を思い知らされる環境に身を置かなければいけないのだとわかります。そんな状況に疑問を呈し、出自を問わず誰もが音楽を楽しめるようにしたいと考え、逆境に立ち向かうザイアの姿に共感します。
ザイアのそんな挑戦する姿を見て、応援してくれる人物や、引き上げてくれる人物が出てきます。でもやっぱりザイアの前には性別の壁が立ちはだかります。現在は少しは改善されているのかわかりませんが、本作の舞台となる1995年にはここまで露骨だったのかと驚きます。本作では、この状況でザイアがどんな道を辿ったのかを描いています。
ザイアとフェットゥマの現在の活躍を知る方はご存じの通り、2人とも音楽家として活躍しています。映画公式資料には、姉妹が立ち上げたディヴェルティメント・オーケストラは「現在も年間約40のコンサートを開催し、精力的に活躍の場を広げている」とあります。本作の制作にあたり、ザイアとフェットゥマは撮影現場にいて、ほぼすべての音楽シーンに参加したそうです。また、本作の出演者はほぼ全員がミュージシャンだそうで、マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール監督は、演奏シーンを生音で撮影することにこだわったといいます。本作には、クラシックの名曲がズラリと登場します。物語も演奏もご堪能ください。
デート向き映画判定
音楽に生きる若者達の青春物語で、年齢を問わず共感できる内容です。性差の問題が出てくる点では、お互いの感覚や価値観を話すきっかけにできるでしょう。音楽に携わっている方はもちろん、音楽に限らず何かに挑戦している方には特に響く内容です。自分が挑戦していることが難しいほど、他者に話すのを躊躇してしまうかもしれません。そんな状況の方は、本作鑑賞を機に好きな人に話してみるのも良さそうです。
キッズ&ティーン向き映画判定
主人公のザイアとフェットゥマは17歳です。ザイアは女性だからとチャンスを奪われるだけでなく、若いからと軽くあしらわれてしまうこともあります。でも、そんな逆境も乗り越えて、今できることに励みます。そんなザイアの姿を見ると鼓舞されるはずです。
『パリのちいさなオーケストラ』
2024年9月20日より全国順次公開
PG-12
アット エンタテインメント
公式サイト
© Easy Tiger / Estello Films / France 2 Cinéma
TEXT by Myson
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情報は2024年9月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。