REVIEW

パストライブス/再会【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『パストライブス/再会』グレタ・リー/ユ・テオ

REVIEW

本作は、恋愛における運命とは何なのかを問う物語です。ノラは12歳の時にソウルからカナダに移住することになり、大好きなヘソンと離ればなれになってしまいます。12年後、ひょんなことからヘソンが自分を探していることを知ったノラ(グレタ・リー)はSNSを介してヘソン(ユ・テオ)に連絡。再び2人は心を通わせていきます。それからさらに12年後、2人がどうなっているのかまでを本作は描いています。
ときに恋愛は“運命”という言葉で語られます。本作にも“縁—イニョン—(韓国語)”という運命を表す言葉がキーワードで出てきます。だから、当然ながらノラとヘソンは運命の相手なのかという視点で観ることになります。でも、それだけでは終わらないのが本作の魅力です。このストーリーには、別のカップルのストーリーも描かれています。ノラとヘソンの関係がロマンチックに描かれる反面、後者のカップルのストーリーはとても現実的に描かれています。さて、どっちが運命の2人なのか。観る方それぞれの恋愛観によって、感じ方は異なるでしょう。

ここからはあくまで私個人の解釈でネタバレを含みますので、鑑賞後にお読みください。

映画『パストライブス/再会』グレタ・リー/ユ・テオ

本作はただのロマンチックなラブストーリーとして終わらせるともったいない!本作を観ていて、個人的には『マディソン郡の橋』を思い出しました。一緒にいたいのに一緒にいられない状況、人生の一時だけを共にする濃厚な関係はそれはそれでロマンチックです。なぜなら、一緒にいられなかった部分は自分の理想で埋められるし、いくらでも想像で“可能性”を膨らませられるからです。だから、濃厚な一時を共にした関係とリアルな関係とをロマンチックという土俵で戦わせた場合、濃厚な一時の関係が圧倒的に優位なはず。これは、どちらが良い悪いという話ではなく、恋愛において何が大切かの話で観た時に全然違った物語に見える点のおもしろさだと思います。
運命の2人なのかどうかも、人によっては解釈が異なるでしょう。ずっと忘れられないから運命の相手なのか、成り行きでいつの間にか一緒になっていたから運命の相手なのかという点も、人それぞれの恋愛観で捉え方は違うと思います。もちろん、ビビッときてずっと一緒にいるカップルもいるので、同じ時を過ごした時間の長短で測るものでもないと思います。だから、本作はロマンチックなラブストーリーとして観るのもアリだし、自分自身の恋愛観を振り返るきっかけにするのもアリだと思います。
もう一点、個人的にはラブストーリーとしてではなく、アイデンティティの話であると捉えました。セリフの中でやたらと“韓国的”という言葉が出てくるシーンがあり、ノラの深層心理にある何かを感じさせます。ノラのルーツが韓国にありつつ、今はアメリカ人であるという点を恋愛関係で喩えているという解釈をしてみると、ノラが葛藤する姿が一層多面的に見えてきます。ノラも12歳の自分を韓国に残したまま苦しんでいた部分があったのかもしれません。
ラブストーリーとして観ても、アイデンティティのストーリーとしてもいろいろな解釈ができると思います。ぜひ皆さんもいろいろな解釈を楽しんでください。

デート向き映画判定

映画『パストライブス/再会』グレタ・リー/ユ・テオ

“大人のラブストーリー”と聞くと、デートにぴったりではないかと思われそうですが、個人的には1人でじっくり観るか、何でも話せる仲の良い友達と観るほうが良いのではと思います。なぜなら、前述のレビューで書いたように、自分の恋愛観を改めて知るきっかけになる可能性がある点で、必ずしも隣りに座る相手と良いムードになるとは限らないからです。とはいえ、私の考え過ぎかもしれませんので(笑)、ご自身の恋愛観にブレない自信がある方はデートで観ても良いのではないでしょうか。

キッズ&ティーン向き映画判定

映画『パストライブス/再会』グレタ・リー/ユ・テオ

12歳から36歳までの恋愛を辿る物語で、皆さんにとっては将来のシミュレーションになりますね。ただ、もし12歳で本作を観たとして、どんな心境になって、どんな風に今後の恋愛観に影響するのかが読めません(苦笑)。参考にしつつ、あまり頭でっかちにならないように、若い皆さんは映画は映画と割り切って楽しむと良さそうです。

映画『パストライブス/再会』グレタ・リー/ユ・テオ

『パストライブス/再会』
2024年4月5日より全国公開
ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト

Copyright 2022 © Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved

TEXT by Myson

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『HERE 時を越えて』トム・ハンクス/ロビン・ライト HERE 時を越えて【レビュー】

映像作家としてあらゆる挑戦を行ってきたロバート・ゼメキス監督は、本作でも新たな挑戦の成果を見せてくれています…

映画『アンジェントルメン』ヘンリー・カヴィル/エイザ・ゴンザレス/アラン・リッチソン/ヘンリー・ゴールディング アンジェントルメン【レビュー】

本作は「近年機密解除された戦時中の極秘ファイルを後ろ盾にしたダミアン・ルイス著 『Churchill’s Secret Warriors: The Explosive True Story of the Special Forces Desperadoes of WWII』」を原作としており…

映画『少年と犬』高橋文哉/西野七瀬 映画レビュー&ドラマレビュー総合アクセスランキング【2025年3月】

映画レビュー&ドラマレビュー【2025年3月】のアクセスランキングを発表!

映画『BETTER MAN/ベター・マン』ジョノ・デイヴィス 社会的成功が本当の幸せをもたらすとはいえない事例【映画でSEL】

昨今、ウェルビーイングという概念が広まりつつあり、社会的な成功は必ずしも幸福をもたらすとは限らないという見方も出てきました。その背景を、「自己への気づき」(SELで向上させようとするスキルの一つ)に紐づけて考えてみます。

映画『片思い世界』広瀬すず/杉咲花/清原果耶 片思い世界【レビュー】

広瀬すず、杉咲花、清原果耶がトリプル主演を務める本作は、『花束みたいな恋をした』の脚本を手掛けた坂元裕二と、土井裕泰監督が再タッグを組んだ…

映画『神は銃弾』マイカ・モンロー マイカ・モンロー【ギャラリー/出演作一覧】

1993年5月29日生まれ。アメリカ出身。

映画『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』 ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース【レビュー】

“ハッピー”や“ゲット・ラッキー”をはじめとする大ヒット曲を多数生み出し、他のビッグ・アーティストへの楽曲提供やプロデュースでも並外れた偉業を成してきたファレル・ウィリアムスの人生が初めて映画化…

映画『ANORA アノーラ』ユーリー・ボリソフ ユーリー・ボリソフ【ギャラリー/出演作一覧】

1992年12月8日生まれ。ロシア出身。

映画『片思い世界』公開直前イベント、広瀬すず/杉咲花/清原果耶/土井裕泰監督 存在するということに対しての肯定を、ここまで実験的に描いた物語もなかなかない『片思い世界』公開イベントに広瀬すず、杉咲花、清原果耶が揃って登壇

劇場公開を目前に控え、本作でトリプル主演を務めた、広瀬すず、杉咲花、清原果耶と、土井裕泰監督が舞台挨拶に登壇しました。

映画『おいしくて泣くとき』長尾謙杜/當真あみ おいしくて泣くとき【レビュー】

タイトルを聞いただけで泣いちゃいそうな作品だと予想できるので、逆に泣かないぞと…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『キングダム 大将軍の帰還』山﨑賢人/吉沢亮/橋本環奈/清野菜名/吉川晃司/小栗旬/大沢たかお 映画好きが選んだ2024邦画ベスト

正式部員の皆さんに2024年の邦画ベストを選んでいただきました。2024年の邦画ベストはどの作品になったのでしょうか?

映画『セトウツミ』池松壮亮/菅田将暉 映画好きが推すとっておきの映画を紹介【名作掘り起こし隊】Vol.4

このコーナーでは、映画業界を応援する活動として、埋もれた名作に再び光を当てるべく、正式部員の皆さんから寄せられた名作をご紹介していきます。

映画『オッペンハイマー』キリアン・マーフィー 映画好きが選んだ2024洋画ベスト

正式部員の皆さんに2024年の洋画ベストを選んでいただきました。2024年の洋画ベストに輝いたのはどの作品でしょうか!?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『BETTER MAN/ベター・マン』ジョノ・デイヴィス
  2. 【映画でSEL】森林の中で穏やかな表情で立つ女性
  3. 映画『風たちの学校』

REVIEW

  1. 映画『HERE 時を越えて』トム・ハンクス/ロビン・ライト
  2. 映画『アンジェントルメン』ヘンリー・カヴィル/エイザ・ゴンザレス/アラン・リッチソン/ヘンリー・ゴールディング
  3. 映画『少年と犬』高橋文哉/西野七瀬
  4. 映画『片思い世界』広瀬すず/杉咲花/清原果耶
  5. 映画『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』

PRESENT

  1. 中国ドラマ『柳舟恋記(りゅうしゅうれんき)〜皇子とかりそめの花嫁〜』QUOカード
  2. 中国ドラマ『北月と紫晴〜流光に舞う偽りの王妃〜』オリジナルQUOカード
  3. 映画『ガール・ウィズ・ニードル』ヴィク・カーメン
PAGE TOP