北マケドニアの小さな街で行われた伝統儀式で、女性が手にすることが禁じられている“幸せの十字架”を、手に入れた女性ペトルーニャの物語。公式資料に掲載のテオナ・ストゥルガル・ミテフスカ監督のインタビューでは、本作が実際に起きたことからインスパイアされたことが語られています。北マケドニアを含む東ヨーロッパの東方正教を信仰するほとんどの国では、毎年1月19日の神現祭の日に十字架を川に投げ入れる行事が行われていて、2014年にマケドニア東部にあるシュティブという街で実際に女性が十字架を掴み取り、地元の住民や宗教関係者達の怒りを買ったという出来事があったそうです。本作でもペトルーニャが幸せの十字架を手に入れると大騒ぎになり、一部の男性が暴動を起こします。これは明らかに女性蔑視、女性差別が根底にあるからなのですが、ペトルーニャが十字架を手にしたことで、この伝統儀式の意味に一石を投じたことになり、神の存在、神の意志は人間によってねじ曲げられているのではないかと、改めて考えさせられます。ペトルーニャのキャラクターが独特なので、前半はたまにコミカルに映る場面もありますが、だんだん緊張感が増してくると、彼女の表情も引き締まり、覚悟が見えてきます。「絶対に譲らない!」という姿勢で戦うペトルーニャの顔つきがだんだん変わってくるのも見どころですが、最後は「よくやった!」と思える、ある意味爽快な結末でさわやかな気持ちになれます。テーマ的にも男性だとどう思うのか、意見を聞きたくなる作品です。


女性差別がテーマになっていますが、男女のカップルは敢えて一緒に観ると、お互いの本音、価値観が見えそうです。議論できる間柄なら一緒に観て討論すると、より絆が深まるでしょう。一方、いかにも男尊女卑的な関係なら、気まずくなることもあるかも知れませんが、物事の本質を見失っている人達を客観的に観察できる内容なので、気付く伸びしろがある相手なら一緒に観るのも良さそうです。


宗教って何だろうというところから考えさせられるストーリーで、キッズにはまだ難しいと思いますが、小学校高学年以上なら充分理解できると思います。“幸せの十字架”の効果はどんな風に現れるのか。しっかり観ると、物体そのものに意味がないことがわかります。宗教的に観るだけでなく、広く一般的な状況に置きかえても通じる部分があるので、道徳の勉強の一環として観るのもアリだと思います。

『ペトルーニャに祝福を』
2021年5月22日より全国順次公開
アルバトロス・フィルム
公式サイト
© Pyramide International
TEXT by Myson