個人的にヨルゴス・ランティモス作品が好きなので、『籠の中の乙女』『ロブスター』などヨルゴス・ランティモス作品を多く手掛け、アカデミー賞脚本賞にノミネートされた脚本家のエフティミス・フィリップが本作で共同脚本を手掛けているということで期待を膨らませて観ました。結果期待通りで、皮肉たっぷりの悲劇的で喜劇的なストーリーとなっています。
昏睡状態の妻を持つ主人公は、悲劇的な日常にどっぷり浸かり、周囲からの同情と厚意を堪能しています。でも、妻が目を覚ましたことで彼が堪能していた世界が崩れ始めます。いかに彼がクレイジーかは物語の設定だけでも伝わってくると思いますが、悲しみに暮れることに快感や幸せを感じる主人公の姿はおぞましいと同時にかなり滑稽です。映画音楽の効果も存分に発揮され、その滑稽さが一層際立って見えてきます。
主演のヤニス・ドラコプロスのほとんどずっと無表情な演技もキャラクターの不気味さを倍増させていて、その怪演ぶりも見どころです。最後はとんでもない方向へ向かっていきますが、ラストシーンは観ようによってはクスッと笑えるというか、「いろいろ皮肉だな〜」と思えます。私も含め、好きな人はすごく好きな作品だと思います。『ロブスター』のような作品が好きな方には特にオススメです。
妻を思う夫に見えて実は…というお話なので、カップルで観るとゾクゾクして、ラブラブムードは吹っ飛ぶかもしれません(苦笑)。相手が主人公のような人間である確率はかなり低くても、どんな人間の内側にも彼のような一面があるかもと思えるので、1人でじっくり観るほうがその時間だけは映画の世界に浸れると思います。
大人が観ても「怖っ!」と思うストーリーです。主人公の息子も登場するので、皆さんは自然と彼の目線で観てしまうのではないでしょうか。何を考えているかわからない父親の姿が恐ろしく、人間の表と裏が見えるので、ちょっと大人不信になるかもしれません。そういう意味では思春期を過ぎてから観たほうが良さそうです。
『PITY ある不幸な男』
2021年10月8日より全国公開
TOCANA
公式サイト
©2018 Neda Film, Madants, Faliro House
TEXT by Myson