テーマ、設定、ストーリーが巧妙で、ゾッとさせられると同時に、社会に対する問題提起を痛烈に行っている点で見事です。“穴”と呼ばれる建物に閉じ込められた人達は、毎月違う階に移されます。一部屋には2名ずつ入れられ、縦に繋がった穴を通して、上から下へ食事を載せた台が下がってきますが、台が自分の階にある時だけしか食べられません。そして建物は何階まであるのかわかりません。収容される人は1つだけアイテムをこの穴に持ち込むことができます。…とこんな設定なのですが、このルールがどんなことを意味するのかが徐々に明かされていきます。まずこの建物が何階まであるのかはわからず、自分が翌月何階に行くのかもわかりません。食事は上の階から降りてくるため、上の階の者が好きなだけ食べてしまえば下に行けば行くほど残っておらず、下に届く頃にはだいぶ傷んで残飯になっていたり、さらに下に行くほどもう食べ物が残っていないこともあります。そうなると「何を食べるの?」ということにもなりますが、後はご想像にお任せするとして(苦笑)、ここで取り上げられているテーマは大きく分けて2つあります。
ここから先は解釈となり、ネタバレに繋がるので、本編を観終わってから読むことをオススメします。
この“穴”が格差社会を投影しているのはすぐにわかるでしょう。上の階は富裕層、下の階は貧困層ということで、富裕層が富を独り占めするために、貧困層が飢えてしまうということを、食べるという行為を介してわかりいやすく表現しています。でも、厄介なのは、ここでは毎月誰がどの階に行くかはわからず、誰もが上の階も下の階も体験するということです。今は上の階でも来月は下の階かもしれないということで、余計に上の階の者は今のうちに食べられるだけ食べておこうとします。こういったことも競争をやめられない資本主義社会を投影しているのではないでしょうか。
そしてもう一つ大きなテーマが隠されています。この建物は上から数えて下に行くほど階数が増えていきます。何階まであるのかわからなくなっていますが、この縦軸は時間軸とも解釈ができます。今現在が0で飽食の時代だとすると、このまま私達の世代が食品ロスを続ければ、未来には食べるものがなくなるということになります。「自分だけよければ良い」という利己主義が蔓延する現代では格差社会を生みますが、このままこの状態が続いていくことで、格差社会どころか、もう子孫には食べ物がなくなるということを象徴しているのだと思います。設定はとてもシンプルながら、限られた登場人物で実に見事にこれらのテーマを描いているので、映画としての見応えはもちろん、社会風刺としても必見です。
インパクトの強い場面が多々あり、食がキーワードになっていながら、観ていて食欲を煽るような美味しそうなシーンはなく、飢えて苦しむ人達の姿と、狂気に陥った人達の姿が描かれるので、デートの雰囲気には不向きでしょう(苦笑)。でも映画としてはとてもおもしろいので、映画好きカップルにはオススメです。食事をするなら、本作を観る前が良い気もしますが、鑑賞後に食事をするなら、食の大切さを一際噛みしめながら美味しく味わえるかもしれません。
R-15なので15歳未満の人は観られません。そして描写がかなり強烈なので、映画を観慣れない人にはショックが大きいシーンもあります。でも、取り上げられているテーマはとても重要なことで、キッズやティーンの皆さんの未来にこそかかってくる事柄でもあるので、15歳以上になり、いろんな映画に耐性がついたら、ぜひ観てください。
『プラットフォーム』
2021年1月29日より全国公開
R-15+
クロックワークス
公式サイト
©BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE
TEXT by Myson