「新居を探しに行ったらエライ目に遭ってもうた!」というストーリーで、ビジュアル的な気持ち悪さや怖さもありつつ、何より心理的に怖くて、さらに元を辿って考えてみると、私達人間もそう変わらないことを普段やっているのだと気付かされて、改めてゾッとさせられます。ビバリウム(vivarium)の意味を調べてみると、動物をペットまたは研究対象として入れておく入れ物(Cambridge Dictionaryより)とされていますが、本作はまさにそのスケールを大きくした世界を描いていて、観る者がこの世界での生活を疑似体験することで、普段人間は逆の立場で無神経に過ごしていることを自覚させられる内容となっています。主演のジェシー・アイゼンバーグ、イモージェン・プーツの他、登場人物はごくわずかで、それがまた不気味なのですが、ビバリウムという空間が自然から隔離された環境であることを象徴しているようにも受け取れます。まるで感情がない不気味なキャラクターも印象的ですが、彼らもある意味私達人間の一面を投影しているのかもしれません。
ビバリウムという言葉は今インテリア業界やガーデニング業界でよく聞かれるようですが、本作を観てしまうとイメージがガラッと変わってしまうかもしれません。単純にスリラーとして楽しむだけでも良いですが、解釈によっては動物保護を訴える内容にも取れたり、弱肉強食の社会を風刺したものにも受け取れたり、いろいろな解釈を楽しんでください。
精神的苦痛が続く日々のなかで、恋人同士のトムとジェマの意見のぶつかり合いが出てきます。そんなシーンは環境の変化によってカップルが受ける影響として参考にできるかなと思いつつ、ストーリーはそれどころではない方向に向かっていくので、良い意味で映画だと割り切って観られるでしょう。ただ、新居を探そうとしているカップルで心配性な人は、こんな不動産屋にあたることはなくても、2人で暮らすにあたり関係性の変化について余計な想像をしてしまう可能性はあるので、新居で落ちついてから観るほうが良いかもしれません(苦笑)。
15歳以上のティーンは観られます。設定がユニークで、強烈なキャラクターも登場し、ゾクゾクする映画なので、観終わった後に誰かと話したくなると思います。1人でじっくり観るのも良いですが、友達と観るとなお盛り上がるでしょう。いろいろな解釈を楽しめる作品ですが、最初は難しく考えずに、フラットな気持ちで楽しむということで良いと思います。
『ビバリウム』
2021年3月12日より全国公開
R-15+
パルコ
公式サイト
© Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film
TEXT by Myson