伝説のギャングスターといえば、アル・カポネの名前が浮かび上がる人も多いでしょう。でも本作で脚本と監督を担当したジョシュ・トランクは、アル・カポネの全盛期ではなく、晩年にフォーカスしました。カポネは脱税の罪により連邦刑務所で11年間服役し、1939年に出所。彼は梅毒による認知症を患っていましたが、本作では症状が悪化する様子や、財産が底をつき困窮していく一家の様子も生々しく描かれています。認知症が進んだカポネは現実か幻かわからない景色に翻弄されますが、皆に恐れられていた頃の自分と、何が起きているかわからず怯える自分との狭間でもがく姿をトム・ハーディが見事に演じています。トム・ハーディは毎回4時間をかけて特殊メイクを施し役に挑んだそうですが、身体の動き、しゃべり方など、細部に及ぶこだわりが見えます。
本作では大きな謎を残したまま亡くなったことを示す物語も含まれ、それが本作のキーポイントになっていますが、アル・カポネが皆と同じ1人の人間であると同時に、どんなに衰えても本能の部分でアル・カポネであり続けた姿も印象的に描かれています。こうした一面を観ることで一層カポネという人物に興味が湧いてきますが、改めて全盛期を描いた映画も観てみると、また違った角度で見えてくるものがあるかもしれません。
妻メエのカポネに対する言動や、周囲への対応も、カポネのキャラクターや変遷を理解する上で重要な役割を果たしています。皆にどんなに恐れられていても、妻だけはカポネに対して対等であるように見えたり、夫婦としての2人の姿も興味深く観られます。ロマンチックなムードには浸れませんが、カップルで観るのも良いのではないでしょうか。
アル・カポネの全盛期ではなく晩年を描いているので、ギャング映画によく出てくる残忍なシーンは少なめですが、認知症を患うカポネの頭の中を描いたシーンでは多少痛々しいシーンも出てきます。R-15なので15歳以上なら観られますが、もう少し大人になってからいろいろな映画を観て免疫ができ、アル・カポネがモデルとなった映画『アンタッチャブル』や『スカーフェイス』なども観てから本作を観たほうが、一層楽しめると思います。
『カポネ』
2021年2月26日より全国順次公開
R-15+
アルバトロス・フィルム
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TEXT by Myson