これは映画好きならぜひ観て欲しいドキュメンタリーです。映画の出来映えを大いに左右するキャスティングの裏側には、多くの名優の誕生秘話があり、映画好きにはたまらない内容が詰まっています。本作は、数々の名優を発掘し、キャスティング(配役)の重要性をハリウッドに知らしめた、キャスティングの先駆者マリオン・ドハティ(1923-2011)の半生を綴ったドキュメンタリーです。マーティン・スコセッシ、ロバート・デ・ニーロ、ウディ・アレン、アル・パチーノ、ロバート・レッドフォード、クリント・イーストウッド、メル・ギブソン、ダニー・グローヴァー、ダスティン・ホフマン、ジョン・ヴォイト、グレン・クローズ、ジョン・リスゴー、ベット・ミドラー、ジョン・トラボルタ等、蒼々たる大物達と、マリオンの意志を受け継ぐ後継者達が、彼女の功績を振り返ります。それと同時に時代に伴う映画業界の変化や、キャスティング・ディレクターという役割がハリウッドでなかなか地位を築けないでいる歴史も綴られています。
本作を観ると、マリオン・ドハティがいなければ今大活躍している名優達の多くは発掘されずにいたかもしれないし、名作は生まれなかったかもしれないことがわかります。また、彼女は他に類をみないほど俳優の素質や才能を見抜く力を持っていて、彼女のキャスティングは映画の作り方にまで影響を及ぼしたというエピソードの数々にはワクワクさせられます。それでもキャスティング・ディレクターがハリウッドでは軽視されている現状に驚かされます。その背景を知ると、国を問わず、映画業界は古い体質をずっと引きずっているのだなと落胆してしまう部分もあります。でも、本作のように彼女達の活躍にスポットが当てられた作品を観ることで私達一般人もキャスティング・ディレクターとして働く方達の存在を知ることができます。映画好きとしては、映画作りの背景を知ることが、映画を作るすべての方々、一人ひとりが讃えられる世の中に変化する一助になればと思います。それにしても、映画ってその裏側もドラマチックで、前人未踏のチャレンジをした方々がいるからこそ、観客を魅了できるのだなと感じます。これはいろいろな意味で感慨深い作品です。
特にクリエイティブな仕事をしている方にとっては、たとえ自分がキャスティング・ディレクターでなくても、こういうところに仕事のおもしろさがあるのだと実感し共感できる内容です。本作を一緒に観て、学生なら将来就きたい仕事の話をしても良いし、社会人なら自分の仕事のやり甲斐などを語り合うのも良いでしょう。仕事が忙しくてなかなか会えずに不穏な空気が漂っているカップルなら特に、1度じっくりお互いの仕事について話すことで理解しあえる部分もあるかもしれません。
だんだん具体的で現実的な職業を頭に浮かべ始める中学生、高校生なら、一層興味を持って観られると思います。映画ができるまでにどんな職種の人達が関わっているのか考える機会はあまりないかもしれませんが、本作を観るとモノ作りの背景が少し見えて、自分達が知らない職業がたくさんあるのだとわかるでしょう。たとえ映画業界に進みたいというわけではなくても、他の業界でも同じように裏方で活躍する人がいるのは想像できるようになると思います。型にはまらない方法で業界に大きな影響を与えたマリオン・ドハティの活躍ぶりは、仕事の醍醐味を教えてくれますよ。
『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』
2022年4月2日より全国順次公開
テレビマンユニオン
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TEXT by Myson