今も争いが続くパレスチナとイスラエルの音楽家を夢見る若者達が集まり、オーケストラを結成するという物語。一見現実ではあり得なさそうな設定ですが、中東の障壁を打ち破るために1999年に設立された実在の和平オーケストラからインスパイアされた物語です。そんな本作の監督と脚本を手掛けたのは、『ブラック・セプテンバー ~ミュンヘンオリンピック事件の真実~』のドロール・ザハヴィで、憎しみ合うパレスチナとイスラエルの若者達の心の変化を丁寧に描いています。
物語は、世界的に有名な指揮者のスポルクが、紛争中のパレスチナとイスラエルから若者達を集めてオーケストラを編成し、平和を祈ってコンサートを開くプロジェクトを引き受けるところから始まります。若者達がオーディションに参加するまでにも家族からの反対や厳しい検問があったりと問題続きで、平和な日本に暮らす私達にとっては驚く展開が多くあります。オーケストラを結成した後も、なかなか一致団結できずに揉めてしまうシーンも多いのですが、スポルクがさまざまな方法で団員達をまとめていく姿はお見事。偏見や差別などに関わらず、バラバラのチームをまとめるという意味でも参考になる点が多くあります。
若者達が悩み苦しむ姿には誰もが共感できますし、世界平和について考えるきっかけにもなる作品です。もちろん美しい音楽も堪能できるので、バラバラのオーケストラが一体どんな結末を迎えるのかご期待ください。
恋愛要素も本作の鍵となっているので、デートでも観て欲しい作品です。詳細は控えますが、本作の恋愛はとても純愛で素敵な反面、やはりここでもパレスチナとイスラエルの壁が影響していきます。彼らがどんな運命を辿るのかは本編をご覧いただくとして、自分達ならこの障害をどのように乗り越えるのかパートーナーと話し合ってみるのもオススメです。
1つの音楽映画としても楽しめますし、紛争や世界平和についても学べるので、皆さんにとっても良い意味で刺激を与えてくれる作品です。平和な日本に暮らしていると紛争の問題はなかなかピンと来ないかもしれませんが、自分の身近な家族や友達関係に当てはめてみると、理解がより深まると思います。
『クレッシェンド 音楽の架け橋』
2022年1月28日より全国公開
松竹
公式サイト
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TEXT by Shamy