ジャネット・ウォールズの自叙伝「The Glass Castle」を映画化した本作は、ホームレスの両親に育てられた子どもの半生を描いています。 これはただ貧しいだけの家族の話ではなく、どうしてホームレスなのかという理由は、特に父親の価値観に強く結びついているのですが、その背景となる事実が1つずつ明らかになっていく度に、この家族の子ども達が受けたであろうショックを、観客も受けることになります。一見すると、この親は子どもに悪影響を及ぼしているのですが、これが愛情深い親だというところがポイントで、「子どものために」という思いで抱いた親の夢が結果的に子どもに重くのしかかり、両方とも幸せになれていない状況がとても皮肉です。さらに、子離れできない親の執着に見える部分もありますが、子どものために抱いた夢であるからこそ、子どもが大人になって巣立ってしまったら、親の夢は叶わないで終わるというジレンマがそこにはあり、また、親の人生がうまくいかない背景には親の子どもの頃の辛い出来事も絡んでいたりして、根本は誰も悪くないという事実が、やるせなさを増大させます。どんな親でも、愛されたり、憎まれたりするものだと思いますが、親に似て嬉しい気持ちと、親に似たくないという気持ちが混在するジャネットの心情がとてもリアルで、娘目線で観ると、すごく心を掻き乱されます。同時にそこには大きな親子愛が描かれていて、結果的には家族という存在の大きさを実感させられ、育った環境や家族関係だけに、人の人生が左右されるという偏った話ではない点でも共感できます。次女ジャネット役のブリー・ラーソンをはじめ、豪快に見えてとても繊細な父親を演じるウディ・ハレルソン、子どもと夫への愛情で混乱しながらも家族を繋ぎ止めようとする母親を演じるナオミ・ワッツと、俳優の演技も見事。家族と上手くいっていた人はもちろん、家族の良い思い出が思い当たらないという方にもぜひ観て欲しい秀作です。
主人公と同じような体験をしていなくても、観ているだけで辛くなるストーリーなので、デートのムードが盛り上がることはないでしょう。主人公のジャネットと恋人との関係性についても、デートで観るには少々気まずい要素となりそうです。ただ、これから結婚しようと自分の心の内だけで考えている人は、一緒に観てお互いの価値観を話し合うと、結婚相手としてどうなのか、一歩踏み込んでリアルに考えることができるかも知れません。
まだ自分でお金を稼いだり、遠くに出かけたり、意志決定をできない(保護者の同意がないと意志が認められない)年齢のあいだは、親の言うことを聞いて暮らすのが当然ではありますが、本作の主人公のジャネットは、自分自身の意志をもって、大きくなってから行動を起こします。本作は、親を大切にすることと、自分の人生を大切にすること、その両方が大切で、辛い体験でも何かしら将来の人生に役に立つことがあるということを描いているので、ぜひ若い皆さんにも観て欲しいと思います。
『ガラスの城の約束』
2019年6月14日より全国順次公開
ファントム・フィルム
公式サイト
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TEXT by Myson