日本でも多くのファストファッション・ブランドの店があり、私達は安価に良質な洋服を買うことができます。でもそれと引き替えに多くの労働者が犠牲になっているとしたら…。本作は、ファストファッション・ブランドで大成功を収めたセレブリティの数日間を描いたもの。スティーヴ・クーガンが演じるリチャード・マクリディ卿はとても強欲で、彼はさまざまな商取引で強引な方法を取り、他国の労働者を安価な賃金で使うことに一切罪悪感を持っていません。そして自分自身は贅沢三昧で、見栄を張るためのイベントに湯水のように金をつぎ込みます。でも、どんなに贅沢を極め力を誇示しようとしても、彼が魅力的に見えないのが本作の見どころの1つで、お金があるだけで中身のない日々が滑稽に映し出されています。そして、お金だけで繋がっている人間関係の脆さが浮き彫りにされていて、そんな人間関係から生まれて当然の膿が爆発する様子が描かれています。セレブリティの生活ぶりは羨望の的になっていますが、本作を観ると虚構の世界にしか見えません。本作は今の格差社会についての風刺として強烈なメッセージを発していると言えます。
エンドロールでは現代社会の貧富の差を具体的な数字で表していて、ストーリーが訴えかけてくるメッセージに一層説得力を与えています。一人ひとりにできることは小さいかもしれませんが、まずはこういう現実があることを知るところからスタートしなければいけないのかもしれません。本作は映画が人々の意識を少しでも変えるきっかけになれば良いなと思える作品です。
主人公のリチャード・マクリディ卿を取り巻く人間関係は複雑で奇妙なので、自分達に当てはめて観て気まずくなるようなことはないでしょう。彼等は皆一見穏便に過ごしているように見えて、家族であってもどこかぎこちなく、信頼関係があるようには見えません。本作を観ていると、お金がいくらあっても、それだけで本当に幸せなのかと考えてしまいます。結婚を意識しているカップルならお互いの経済状況は気になるところですが、それよりも重視すべきはお互いの価値観、金銭感覚です。なので、本作を観て将来どんな生活がしたいかなど話し合ってはどうでしょうか。
キッズの皆さんにはまだちょっと難しい部分があると思います。自分自身でお金を稼ぐという経験をしてから観るほうが、本作で描かれている問題の重要性がわかると思います。ティーンの皆さんの中にはもうアルバイトをしている方もいるでしょう。将来自分がどんな働き方をしたいかを考える上で、ビジネスの世界、資本主義社会がどういう仕組みになっているのかを知ることはとても大切なことです。そういう意味で、本作は社会見学をする感覚で観るのも良いと思います。
『グリード ファストファッション帝国の真実』
2021年6月18日より全国公開
PG-12
ツイン
公式サイト
© 2019 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION
TEXT by Myson