たった1本の映画を観ている間にこんなに視点を動かされるとは思いませんでした。本作を観ていると、いかに自分が思い込みを持って物事を見ているかを実感させられます。また、物語が進むにつれて複数のテーマが取り上げられていくなかで、真相が見えてくる度に自分の思い込みによって見え方が全く異なることにも気付かされます。きっと本作は1度目、2度目、3度目と観る度に、同じシーンでも違った見え方が出てくると思います。
序盤では、学校と家庭の問題がテーマとなるかのような緊張感が漂います。教師と保護者のやりとりを観ていると、教師達に激しい苛立ちを感じるものの、背景がわかってくると、私達は普段あまりに断片的な情報だけで物事を判断していることを実感します。また、人間は問題に発展する事態を避けるために事実を包み隠したり、嘘を言うけれど、結果的には逆に問題を生んでいるとわかります。
前半は日々の出来事の概観を見せながら、後半は子どもの目線で真相が明かされていきます。子どもなりに世の中を理解しようとしていると同時に、子どもだからこそ見えている世界があり、親でもわかっていないことがたくさん出てきます。また、他人に対しても大人は相手の本質を見ようとせず、わずかな情報と自分の経験によって、短絡的に相手を型に当てはめて見ていることを客観視できます。さまざまな歪みのある社会で翻弄される子ども達の姿を観ていると苦しくなるところがありつつ、子ども達の素直さと心のしなやかさに癒されます。
安藤サクラ、永山瑛太、田中裕子といった演技派が揃うなか、2人の少年を演じた黒川想矢、柊木陽太の名演も見もの。ストーリー、演出、演技、三拍子揃った秀作です。観ている間は苦しくなりつつも、最後は清々しい気持ちにさせてくれます。ぜひ大人も子どもも観てください。
人間の悪い面も良い面もあぶり出したストーリーなので、ゾッとしたりホッとしたりで観ている側の心も揺さぶられます。本作を観ていて、自分が知っている人は自分が思っているような人ではないのかもしれないと思った時に、パートナーについて疑念が湧くのか、安堵を得るのかは未知数です。本作をカップルで一緒に観て共有してほしい反面、どこかパートナーに対して引っかかるところがありながら交際をしている方は1人でじっくり観るほうが落ちついて観られるかもしれないですね。
皆さんは、湊(黒川想矢)や依里(柊木陽太)に感情移入して観られるのではないでしょうか。大人は何でもわかったような態度で接してくるけれど、何もわかっていない時もあって、子どもだって大人に気を使っているんですよね。子ども達が普段もどかしく感じていることが本作には描かれていて、皆さんは大人とは違った観方をするかもしれません。親子で観たり、友達と観たりして、感想をぜひシェアしてください。
『怪物』
2023年6月2日より全国公開
東宝、ギャガ
公式サイト
©2023「怪物」製作委員会
TEXT by Myson
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