本作は河林満による著書「渇水」を原作とし、白石和彌が初プロデュース、髙橋正弥が監督を務めて映画化しています。舞台は日照り続きの夏、水道局員の岩切(生田斗真)は水道料金を滞納する家庭を訪れて周り、必要があれば水道を停めて回っています。ある日、岩切は2人きりで家に取り残された幼い姉妹と出会います。
岩切は淡々と仕事をこなし、水道料金滞納者達のさまざまな事情も聞き流し、支払いができない家庭の水道を停めていきます。働けるはずなのに働かない中年男性、彼女や親に料金を立て替えてもらっているだらしない若者など、玄関先のやり取りを観ていると、滞納者の人生が垣間見えてきます。その背景には社会的システムの問題も感じ、何ともいえない歯痒さを感じます。そして、岩切自身も家族にまつわる問題を抱えているので、彼自身の心境の変化にも注目です。
生田斗真は、水道局員として淡々と仕事をしながらも家族が離れてしまい孤独を感じている岩切を自然体で演じています。そして、門脇麦、磯村勇斗、尾野真千子らも重要なキャラクターとして登場しています。また、オーディションで選ばれ、幼い姉妹役を演じた山﨑七海と柚穂の活躍も見逃せません。ただ可愛いだけでなく、厳しい状況のなか、姉妹で協力して生きていく場面には心を打たれます。
本作は、貧困、格差社会、育児放棄などの社会問題が描かれているので、大人ならどんな方でも心に響くものがありそうです。現代社会の状況と照らし合わせながら、生きることの意味や幸せについて考えるきっかけにもなる作品です。
主人公の岩切や水道料金の滞納者達の人生からは現実を突きつけられる場面も多く、ムードを盛り上げる要素もないので、初デートよりもベテランカップル向けの作品です。岩切は、妻と息子が家を出ていってしまったため、一軒家に1人で暮らしています。岩切と同じ失敗をしないためにも、彼を反面教師として観て、夫婦や家族関係を良好に保つヒントを探ってみてください。
皆さんの場合は幼い姉妹達に共感しながら観られると思いますが、主人公が訪問する水道料金の滞納者達の姿は、決してお手本とはいえません。また、さまざまな社会問題に関するテーマが盛り込まれており、水道局員の仕事の大変さもわかるので、社会勉強の一環としてご覧ください。
『渇水』
2023年6月2日より全国公開
KADOKAWA
公式サイト
©「渇水」製作委員会
TEXT by Shamy