1979年10月26日、韓国のパク・チョンヒ(朴正煕)大統領は、自らの側近だった中央情報部(通称:KCIA)の部長キム・ジェギュ(金載圭)に殺害されました。本作はこの事件の実録本「南山(ナムサン)の部長たち」を基にしたフィクションです。本作では、イ・ビョンホンが主役を務めており、主人公の名前はキム・ギュピョンとされていて、事件前の40日間が描かれています。映画の序盤では、実際の出来事として、1961年5月16日に軍事クーデターが起き、クーデター勢力が新政権を樹立すると同時に、韓国初の情報機関“中央情報部”を設立し、強大な権限を武器にパク・チョンヒ大統領による長期政権を支えたことが述べられています。劇中では、その後いかにパク大統領が独裁的な政治を行い、KCIAが横暴な行為をしてきたかが描かれていますが、キム部長が忠実に大統領に仕えている姿を見ると、最初はなぜ暗殺に至ったかが不可解に思えます。でも、その背景に大統領が国や政治を私物化している様子が見えたり、KCIA関係者の中には、クーデターを起こした頃の革命家としての思いと現状の食い違いに対して無念に思う人がいたり、複雑な人間関係が浮かび上がってきます。40日間でキム部長にどんな葛藤があったのかは本編を観て頂くとして、本作を観ると、世界中のどこでも歴史は繰り返されていることを痛感します。権力を集中させることの危険性がありありと伝わってきますが、近しい人物ほど権力者を止められなくなる矛盾もあるのだなとわかります。本来は政治に直接携わる人達に自分達自身を律して欲しいところではありますが、本作で権力に溺れていく人の弱さを見ると、やはり末端の国民が政治に関心を持って、疑問を呈するのも必要だと思いました。日本の今後を考える上でも有用な作品です。
大統領暗殺事件のお話で、テーマが重く、一部過激なシーンも出てくるので、デート向きではありません。ただ見応えがあるので、映画デートが定番となっているカップルなら一緒に観るのも良いと思います。当時はこのニュースで騒然としたはずで、その後の韓国史にも大きな影響を与えていると思います。韓国の情勢や歴史に詳しい人と観て、そういった付随情報をもらうのも良さそうですね。
基になった史実を知らなくても、ついていける内容だとは思いますが、せっかくなので予習してから観るとより理解が深まるでしょう。韓国とアメリカの関係が要になっていますが、劇中では日本のお札もちらっと出てきたり、当時の韓国と他の国との関係も調べておくと、一層興味深く観られると思います。世界史の勉強も兼ねて観ると一石二鳥ですよね。
『KCIA 南山の部長たち』
2021年1月22日より全国公開
PG-12
クロックワークス
公式サイト
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TEXT by Myson