本作は劇場公開前にほとんど情報が明かされず、公開初日(2023年7月14日現在)でもパンフレットは販売されていません。ここまで情報制限を徹底する背景にさまざまな憶測が飛び交うなか、作者や作品提供者の意図を汲んで、ここでも極力情報を控え、あくまで私なりの解釈を述べたいと思います。その前に、映画公式資料によって明かされている情報として、『君たちはどう生きるか』というタイトルは、宮﨑監督が少年時代に読み、感動した吉野源三郎氏の著書「君たちはどう生きるか」から借りたものであるとされています。ただし、原作は宮﨑駿監督と明記されており、宮﨑監督のオリジナルストーリーとなっています。
※下記、ネタバレを含みます。
本作は、宮﨑駿監督が10年ぶりに作った作品です。本作の舞台は戦時中で、主人公の少年が一時東京を離れ、自然豊かな場所で体験する不思議な出来事を描いています。まず、緑が豊かな美しい自然の風景と共に、緊迫したシーンが随所に織り交ぜられているのが印象的です。少年の年齢は思春期に入る頃だと思われ、大人の事情を理解できる聡明さがありつつ、まだあどけなさが感じられます。そんな多感な時期の少年の生活の変化への戸惑いが物語に大きな意味を持っています。少年は先祖代々縁のある建物で不思議な体験をします。観る側も何が起きているのか頭を働かせながら、彼の冒険を見届けることになるでしょう。そして、彼の冒険の舞台となる世界、複数のキャラクターの存在や言動の意味を理解したいと思うはずです。比喩的な描写が豊富で、意味を咀嚼するには少し時間が必要ながら、観終わってから思考を巡らせるおもしろさがあります。これこそが、本作の情報を極力控えた要因の1つなのではないでしょうか。あくまで、私の解釈でしかありませんが、現代は情報に溢れています。でも劇中で少年が自分の足で未知の領域に飛び込み、自分の目でその世界を見て、自分の意志で行動する姿を観ると、それこそが現代に欠け始めている姿勢であるように思えます。また、クライマックスでは少年の生きる覚悟が見えます。少年の言葉は、時代は違えど私達が今生きている世界で生きることの意味を改めて教えてくれているように思います。世界を遮断してじっと孤独に生きるのか、世界をありのままに受け容れて自分の意志で生きていくのかを問われているようにも感じました。
さらに「継承」も1つのテーマになっています。世界全体において、戦争を知る世代から今の若い世代へのバトンタッチを意味すると同時に、映画作家としての宮﨑駿監督が次世代に継承していく上で伝えたいメッセージなのかもしれないとも想像が膨らみました。
とにかく、解釈は自由だと思います。でも、何か大きなことを託された気持ちになるストーリーです。そして、複数回観ることで発見があるように思います。ぜひ外部の情報に頼らず、皆さんそれぞれの直感で観て欲しいです。
初デートで観ても気まずい要素はありません。宮﨑駿監督作品なので説明不要で誘いやすいですよね。鑑賞後に誰かと話したくなる内容で、会話のネタも豊富に見つかるので、一緒に観るのも良いでしょう。いろいろな解釈ができそうな分、お互いに性格や思考性を知るきっかけにもなりそうです。
皆さんの世代が観るとどんな風に感じるでしょうか。友達同士で感想を述べ合うのも良いですし、親子で感想を述べ合うのも楽しそうです。本作でも可愛いキャラクターやおもしろいキャラクターが登場します。ストーリーのおもしろさはもちろん、芸術としてのスゴさも感じられます。さまざまな点で刺激をもらえると思います。
『君たちはどう生きるか』
2023年7月14日より全国公開
東宝
ジブリ公式サイト 東宝公式サイト
© 2023 Studio Ghibli
TEXT by Myson
第96回アカデミー賞®ノミネート:★長編アニメーション賞、計1部門
(★)は受賞した賞です。