2014年、中国でニセ薬事件が起こり、この事件をきっかけに、中国の医薬業界では改革が起きました。本作はその実際の事件を基に描かれています。そして本作は、2018年7月に中国で公開され、3日間で9億元(約146億円)の興行収入を達成し、最終的に30億元(約500億円)を超える爆発的なヒットを記録しました。こう聞くと、偽薬に多くの人が騙されたスキャンダラスなストーリーなのかと思う人もいるかも知れませんが、実際には、偽薬ではなく、政府と有力大手企業の都合によって、安価で買えるはずのジェネリック薬が偽薬扱いをされて、国民が苦しめられたというお話なんです。そもそもその薬は中国では正式に売ることができず、インドから秘かに輸入して隠れて販売するしかありませんでした。上海で、男性向けのインドの強壮剤を販売する店主のチョン・ヨン(程勇)が生活苦に陥り、ある男の誘いを受けて、密輸入を始めるのですが、前半では彼等の商売が成功する様子を描き、後半はチョン・ヨン(程勇)の商売が拡大することで招いた問題と、それに紐付いて実際に命を危険にさらされなければいけなくなる人々の実態を描いています。本来、密輸入や密売は犯罪だし良くないことなのですが、それは国や一握りの権力者の支配が原因である場合もあるのだと本作を観て知りました。こういった問題は氷山の一角に過ぎないだろうし、社会の中の貧富の差がもたらす問題の根深さを感じますが、この事件を機に中国の医療業界で改革が起きたことは本当に喜ばしいことで、少し希望をもらえます。前半はコミカルですが、後半はシリアスなストーリーに転換して、見応えがあります。中国の人々のエネルギッシュな姿にも共感できる作品です。エンタテインメントとして観ても、社会問題を知るために観ても、観て損はありません。
ロマンチックなムードになるようなストーリーではありませんが、気まずくなるようなストーリーでもないので、逆にどんなカップルが観てもオーケーでしょう。最初はサクセスストーリーを観ているような感覚で楽しめて、後半は社会問題の実態を映し出す内容になっていて、誰が観ても引き込まれます。自分の生活すら厳しい状況だったり、自分の立場が危うくなる状況でも人助けができるのかを考えさせられる内容なので、鑑賞後の感想に人柄が表れるのではないでしょうか。そういう意味で、お互いをよく知るきっかけに一緒に観るのも良さそうです。
薬の販売の仕組みについて知っている人なんて大人でも少ないと思いますが、ちょっと想像を膨らませれば理解できるので、肩肘を張らずに観てください。ただキッズにはまだ難しい部分があるので、中学生くらいになってから観るほうが理解できるでしょう。ジェネリック医薬品は何かということだけ知っておくと、より理解が早くなるので、ここで説明しておくと、広辞苑第六版(岩波書店)によれば「先発医薬品の特許期間あるいは再審査期間が過ぎてから開発された、同じ成分を含む薬品。開発費用が少なく、承認審査も簡単なので、薬価を低く抑えることができる。後発医薬品」ということです。中国ではいち大企業が自社で出す薬を高嶺で売り大きな利益を独占していました。でも、一生薬に頼って生きなければいけない人にとってその薬は高価過ぎて買えません。病気を抱えているため、生活苦もどんどんひどくなる人が多くいましたが、そういった状況下で、ジェネリック医薬品を密輸入して影で販売する人が出てきて…というお話です。必要悪という言葉で片付けるのは少々抵抗がありますが、でも善悪は見た目とは違うこともあるのだということを知るきっかけになるストーリーです。社会を知るために、若い皆さんにも観て欲しい1作です。
『薬の神じゃない!』
2020年10月16日より全国順次公開
株式会社シネメディア
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TEXT by Myson